光 8
天狗がキレイな食べ方でご飯を食べながら、何かよく分からない話をしてた。ずっと。
オレホストやっててさぁって。
ホスト。
確かに、言われてみればそんな感じがする。
金髪に金色のアクセサリーがじゃらじゃら。
でも、こんな山からどうやって店まで行くんだろう。
思ったけど、そんなの僕に関係ないやって特に突っ込まずスルーしてた。
スルーしてるんだけど、天狗はずっと喋ってた。鴉はガン無視で黙々とご飯を食べていた。
沈黙ではないのにそれが沈黙以上に居心地が悪くて、僕は僕用に用意された朝ご飯を食べるしかなかった。
………。
久しぶりに食べるあったかい手料理は、思った以上においしかった。
天狗の話は結局終わらなくて、結局僕は朝ご飯を完食した。
もう行こう。
本当に本気で行こう。
の、タイミングがつかめなくて、天狗がお茶を飲む音に、ああこれ湯呑み置いたタイミングで言おうかなってスタンバってた。鴉もカラスも食べ終わってるから。もういいよねって。
そしたらまた天狗が。
「ぴかるん、お風呂入ったら?」
は?
心の声がもしかしたら漏れたかもしれない。うん、きっと漏れた。は?何言ってるのこの人。このホスト。
「お風呂。入った方がいいよ〜ぴかるん。昨夜入ってないよね?」
だから何だって言うの?ああ、もしかしてくさい?におう?
だとしたらごめんなさい。
正確な人数分からないけど3人以上はいた先輩たちにまわされて、それからお風呂入ってない。そのままなんだよ。身体は。
体操服のままだったらもっと多分ひどかった。制服だからちょっとはマシでしょ?
生々しくされたことを思い出して、ちょっと吐きそうになった。
ご飯食べてから思い出すことじゃない。っていうか忘れたい。思い出したくない。
あんな。
………あんな。
「………もう、行くから」
行く。もういい。もう。
ごちそうさまって手を合わせた。そして立ち上がった。
僕が座ってた椅子の背もたれにとまってたカラスが、急に動いた椅子にびっくりしたのかばさばさって飛んだ。
テーブルにおりて、僕をじっと見てる。
さよならって、撫でた。
キミのおかげでカラスを撫でるなんて貴重な経験ができたよ。
なんて、その貴重な経験を話す相手なんか居ないけど。
「『家に』帰るの?」
不意に聞こえた天狗の声。
同じ。
さっきと同じ。
光、手を合わせてって言ったときと。
ふざけた感ゼロ。うわって、こわいやつ。
しかも『家に』に含みがあるような気がするのは気のせい?
「………そう、だよ」
カラスもまだ見てるけど、天狗もじっと僕を見てた。
金髪の前髪から覗く、カラコンなの?くっきり二重の茶色い目が。僕の方をじっと。
真顔。
笑ってない、顔。
「『ここ』でウソはダメだよ、ぴかるん」
行こう。
この人何かこわい。おかしい気がする。何がって分からないけど何か。
「ウソじゃない。きっと『お父さんが心配してる』から、帰ります」
僕はちょっとびびって出ない足を無理矢理動かして、絶対にありえないことを言って廊下に出ようとした。
ふたりと1羽に背を向けた。
「お風呂入ってから帰ったらいいじゃない?着替えは鴉が小さい頃のがオレが捨てられなくて少し残ってるよ〜?それを着ればいいんだし」
なのに。
なのにまだ。
「ちょっと鴉〜、そういう目でオレを見ないでくれる〜?」
「………」
「パンツはさすがにないって。ないよ?パンツまでは。でも他のは心配しなくてもあるから、お風呂入ってさっぱりしてこよ?そうしよ?それから帰ればいいじゃん、まだ朝だし〜。オレは今から寝るけど、鴉に麓まで案内してもらえば迷うことも」
「いいです‼︎」
しつこいよ‼︎って思って、思ったからつい大きい声になって自分でもびっくりした。
お世話になっておいて怒鳴るとか。
でも、僕が頼んだんじゃない。僕は。
僕は。
「お世話になりました‼︎」
背中を向けたままそれだけ言って、僕は廊下をダッシュした。
左右の二択だから行けると思ったのに僕がダッシュした方に玄関はなくて、くるって反対向いてまたダッシュした。これ結構恥ずかしいやつ。
でも見つけて。反対側に。玄関を。たどり着いて。
そして僕はやっと。
やっと。
それでやっと、僕はお節介で色んな意味で少しこわい世話焼きふたりと1羽の家から、逃げ出すことができた。
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