光 7
ここの人たちは人の話を聞かない。
ご飯要らないって言ってるのに強引に座らされて、その上。
「パン?ご飯?」
「………だから僕は………」
「パンな」
「………」
要らないって最後まで言うことさえできない。
やたら背が高くてタイプ的には全然違うけど、やたらカッコいい大人ふたりが手早く朝ご飯の用意してて、何で僕はここでそんなのを見てなくちゃいけないんだろうって。
ふたりに聞こえないようにため息を吐いたら、カラスがこっちを見ろとでも言うようにばさばさって羽を羽ばたかせた。
「手を合わせて」
コーヒーが置かれて、入れるならどうぞって牛乳がパックごとどんって置かれて、砂糖かな?陶器の容器とスプーンがどんって置かれて、オムレツと何かちょっと不思議な、ちょっと見た目気持ち悪いサラダと焼いたパンが乗ったお皿が問答無用でどんって置かれた。
僕の隣に同じメニューで鴉って人。
天狗って人は鴉の前でご飯と味噌汁つき。
カラスの前には小さくちぎった食パンのお皿。
カラスも一緒に食べるんだ。
変な家。
って他人事みたいに見てたら言われた。天狗に。
「光、手を合わせて」
「え?………あ」
びっくりして。
びっくりしすぎて思わず言われた通り手を合わせた。
だって、光って。
手を合わせてって。
言い方が。天狗の。
ついさっきまでぴっかるんとかぴかるんとかふざけた呼び方して、金ピカな外見にぴったりなちょっとイラッとするような喋り方してたのに。急に。
「いただきます」
「いただきます」
「………い、いただきます………」
手を合わせたふたりがものすごく真剣な声で言って、だからまた注意されるって僕も言って、なのにそのまま動かないから、え、食べないの?って見たら、ふたりは、ふたりが、ふたりともが。
手を合わせたまま、目を閉じてた。
え。
何?
いただきますって、いただきますって言ったら食べるんじゃないの?食べるために言うっていうか。
食べるときは、母さんが生きててご飯作ってくれてたときは僕も言ってた。いただきますぐらい。
でも、言うだけでそれは。こんな風には。だって言うだけのものでしょ?
何でこんな真剣なの?
ぱって見たら、カラスもじっとしてた。
何このカラス。
っていうか、本当に何なのこの人たち。
芸能人以上に整った顔してモデルなの?ってぐらい背もあって、そんな人たちがこんな山にふたりで暮らしてて、天狗とか鴉とか変な呼び方しあってて。
早く、出よう。ここを。
まだ目を閉じて手を合わせてる、金髪金色チャラチャラ男を見ながら、急にこわくなってそう思った。
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