光 6

 鴉って人のあったかくて大きい手に泣きそうになったけど、手はすぐばって離れて鴉って人は僕から離れてった。




 それを合図みたいにして、よしもう行こう。ここから出て行こう。



 って、思ったのに。思ってるのに。






「うわああっ」






 鴉って人の肩から、カラスがばさばさって飛んで、そのまま今度は僕の肩に乗った。






 意外と重い。






 じゃ、なくて。






 カラスはそのまま、僕にすりすりって。



 すりすりって。カラスが。え。カラスだよね?これ。実は違う鳥ですってオチじゃないよね?






 何でこんなに人懐っこいの。カラスってこんななの?違うよね?






「こわがらなくて大丈夫だよ〜、ぴかるん。この子は天狗山のボスカラスでね、すっごい頭のいい子だから。ぴかるんに一目惚れしたみたいだね」

「ひっ…一目惚れ⁉︎」






 は?って。



 鳥が、カラスが、しかもボスカラスが、人間相手にそんなこと。






 でも、カラスは一生懸命すりすり。



 僕に、僕のほっぺたに、すりすりすりすり。






「そう、一目惚れ。あっちの鴉もぴかるんかわいいから気に入ったみたいだし、とりあえずご飯食べよ、ご飯」






 え?あっちの鴉?






 聞き返す間もなく、僕は天狗にぐいぐい背中を押された。



 同時にカラスが僕の肩で羽をばさばさするから、それにびっくりして逃げるタイミングを失って、ぐいぐいぐいぐい。






「僕ご飯いいですからっ」

「ダーメダーメ、もうぴかるんの分まで作ったから」

「でもっ」

「勝手に山に入って悪いと思うなら、食べってってよ〜?」

「………っ」






 ご飯作ったって何。もうほっといて。行かせて。






 必死に断ろうとしてるのに、勝手に。



 勝手にって、言われたら。確かに勝手に入ったし。っていうかそもそも山なんて勝手に入っていいものだと思ったし。今もそう思ってるけど、もしかしたらダメな山もあるかもしれない。



 しかも、僕。






 死のうとしてる。



 勝手入っちゃいけない、この人の山で。






「はいはい、ぴかるんはここー」






 ガタガタって、台所。テーブル。椅子。



 天狗って人が椅子をひいて、そこに僕を押し込んで座らされた。



 そしたらカラスがぴょんって僕の前、テーブルの上におりた。






 ばさばさ。ばさばさ。






 羽。






 ふりふり。ふりふり。






 尻尾………じゃないけど、何て言うの?尾?を、してる。






 これ、さっきもやってたけど、何か意味があるのかな。






 ちょっとかわいいかもとか思ってたら、天狗が、ぶーって吹き出してびっくりした。



 笑われたことに怒ったのか、カラスはばさばさって飛んで、天狗をつついて、そしてまた。






 僕の前で。



 テーブルの上で。






 うん、やっぱりちょっとかわいいかも。






 僕に何を訴えてるんだろう。



 分からなくて、ごめんって意味を込めて触ったカラスは。






「………カラスって、あっついんだね」






 想像以上に、熱かった。

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