鴉 5
カアアアアアアッ………
カアアアアアアッ………
顔を洗ってたらカラスの声がした。聞こえた。
2回。
ってことは。
注意喚起。
急いで顔を拭いてタオルをぽいって洗濯機に放り込んで、バッて洗面所を出たら、台所から出てく天狗の背中が見えた。
………結局、俺やカラスに何だかんだ言いながら、自分だって心配してるんじゃん。
声には出さず突っ込んでたら、廊下からおっはよーなんて天狗の声。
やたら高い天狗のテンションへの光の反応に興味があって、俺も廊下に出た。
の、途中で、テーブルの上の朝ご飯が目に入った。
オムレツにウインナーにサラダが乗った皿が3つ。
いつもは2つ。
だからそれはつまり、天狗と俺と光の。
何だかんだで世話焼くんじゃん。
って、それも最初から分かってる。分かってた。
天狗はそういうやつだ。
だから俺は、生きてる。
生まれてすぐ、捨てられたのに。俺は生きてる。
「だっ………誰⁉︎ぴっかりんって何⁉︎」
「誰ってオレのこと?オレは天狗だよ〜。この家とこの山の主✨でもってぴっかりんはキミだよ、キミっ。ぴっかりんがいい?ぴかりんがいい?ほら名前光でしょ?あ、ひかるだからぴっかるんかぴかるんだ、ごめんごめん。間違えた。で、ぴかるんどっちがいい?」
「え⁉︎や………山の⁉︎あのっ………かっ………勝手に山入っちゃってごめんなさい‼︎でも呼び方はどれもイヤですから‼︎っていうかもう行きますからっ‼お、︎お世話になりました‼︎」
「えー?どれもイヤなの?じゃあどうしようかなあ」
「ちょっ………」
「あ、鴉〜、ぴっかるんとぴかるん、はたまたぴっかりんかぴかりん、どっちがいい?」
「ちょっと離して‼︎僕もう行くから‼︎」
「そうそう、朝ご飯ぴかるんの分も作ったから、おいでおいで〜」
「はっ………離して‼︎」
「こっちこっち〜」
「ちょっと天狗さん‼︎」
「うわ、天狗さんとかやめてよ、ぴかるん。天ちゃんでいいって、天ちゃんで」
天狗は、元々↑みたいなやつではない。
いや、そうなのかもだけど。そうなんだけど。何て言うか。
天狗は、天狗より頭ひとつ半ぐらい小さい光が騒ぐのを無視して光の手首をつかんで台所に引っ張っていく。
その後ろをカラスがとことこついていく。
天狗は、心配してるんだ。
普段人なんか入ってこない、入ったら出れないなんていわくつきらしいこの山に入ってきて倒れてて、俺には見えないけど矢が刺さってて。
しかもその矢は抜かないと死ぬって。どんどん腐ってくって。腐りながらヘドロだらけになってそして。
「鴉もおいで〜。今日は鴉の大好きなオムレツ〜。オレのオムレツはうんまいぞ〜?」
見えない。
俺には、矢なんて。
天狗に引っ張られてじたばたする光をどんなに見ても。
でも、天狗がそう言うってことは。
「だから僕もう行くって‼︎」
泣きそうな声で、光が天狗の手を振り払って言った。
解けた手に、光はぐりんってこっちを向いて天狗から逃げようとして、光のすぐ後ろにいた俺にどすってぶつかった。
光は、やっぱり小さかった。
俺より頭ひとつ分。
こんなんで。
何で。
ぶつかった身体をそのままがしってつかまえて、気づいたら撫でてた。頭を。
カアッ………
足元でカラスが小さく鳴いて、ばさばさって俺の肩にとまった。
そのままつんつんって、俺の肩らへんにある光の真っ黒な髪の毛をくちばしでつついてる。
「ぴかるんモテモテ〜✨」
こんな小さいのにな。
光からは、悲しい、涙のにおいがしてた。
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