鴉 4

「おっはよ〜、鴉」

「………おかえり」

「ただーいま」






 朝6時半。



 ここ数年、ホストの仕事をしてる天狗は、夕方から夜に居なくて朝起きると居る。台所に。






 朝飯。






 いつも天狗が朝飯を作ってる。






 ずっと飯担当は天狗だった。飯担当っていうか………家事は全部天狗がやってくれてた。






 俺が居るからやってるんじゃなく、俺が居なくても生きてる以上やらないといけないんだろうけど、俺が小さい頃からずっとやってくれてて、それがイヤで、少しずつ教えてもらって今は俺。飯も家事も。


 俺はこの家に、天狗に住まわせてもらってるから。だからせめてって。





 だいぶ俺がやる。やってる。



 でも朝だけはずっと天狗。



 お前はゆっくり寝てろって。






 俺にとって天狗は、父でもあり母でもあるような、けど、父ではなく母でもない。



 兄弟のような友だちのような、なのにそのどれでもない。






 ニッて。






 どの存在でもない天狗は、ニッて。俺を見て笑うんだ。






「ぴかりん、ご飯食べた?」

「………?」






 唐突の、質問。寝起きで頭がついていかない俺。






 ぴかりん?



 ぴかりんって何だ?






 いつものように先に顔を洗ってこようって、洗面所に行こうとしてたけど、やめて止まってコンロのところでジュージュー何かを焼いてる天狗を見た。






 ぴかりん?






「ぴかりんだよ。ぴかりん」

「………?」

「やっぱにぶちんだなあ、鴉はー。光だよ。昨日拾った矢少年」






 ぴかりんって。



 にぶちんって。






 そんなんで分かるわけないだろって思いつつ、食べてないって答えた。何で知ってるのか。名前。






「だよねぇ。そうだよねぇ」






 天狗はそう言って、何でもないことのように。



 そのままジュージュー、フライパンの中の何かを焼いてた。






 光。






 昨日カラスが拾って、俺がここに連れてきた男。子ども。人間。






 どうするんだろ。






 俺は光をここに連れてきて、どうしたいんだろ。






 光は?


 どうしたいんだろ。


 死ぬ?死にたい?






 ………何で?






 分からなくて。






 俺は洗面所で、ばしゃばしゃと顔を洗った。

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