第4話 秘密

 楽しかったはずの旅行は、一転して気まずい思い出になった。帰京してからも二人の間はぎくしゃくが続き、会う機会もないままに一か月以上が経過した。

 そんな折、久々に彼女から「話がある」との連絡があり、西新宿の高層ビルの上層階にあるラウンジで彼女に会った。


「久しぶり、元気だった?」

 定番のあいさつから始まり、ここ一か月分の近況報告がぎこちなく続いた。

 話があると呼び出しておきながら、美和はなかなか核心に触れてこない。僕も、彼女の口から決定的な話が出ることが怖くて、あえて口を挟まなかった。

 時間だけが無為に過ぎ、彼女が帰宅に使用する特急電車の時刻が近づいてきた。どうやら二人のことは、結論が先延ばしになったようで、少しほっとしている自分がいた。


「そろそろだろ。駅まで送るよ」と彼女を促し、会計を済ませ、エレベーターが一階に着いた時だった。

「今夜は帰らない!」

 美和はそう言うなり、通りに出てタクシーを止め、運転手さんに行き先を告げた。

「ラブホテルまで行ってください!」

 

 十分後、僕たちはネオンきらめく歌舞伎町の歓楽街にいた。どこへ入ればよいのか戸惑う彼女の腕を取って、僕はその辺りでは一番きれいそうなホテルに入った。

 そこはいかにもラブホテル然とした部屋だった。マリンブルーを基調とした室内に、これまたそれっぽいキングサイズのベッドがどんと置かれ、その側にソファとTVセットがあった。


 僕は、彼女に勧められるままバスルームでシャワーを済ませ、ホテルの備え付けののガウンを着た。

 入れ替わりでバスルームに入った美和は、僕と同じガウン姿で部屋に戻ると、ソファに座る僕の前で膝立ちになった。ガウンの下は何も身に着けておらず、胸元からは、ピンク色の乳首と、下方のチャコールグレーの茂みまでが目に入った。

 

 彼女は茫然とする僕の下着を一気に引き下ろし、僕に跨がった。太腿に感じる彼女の恥毛や花芯の感触に、僕の身体が思わず固くなる。

 美和は僕の両肩に腕を回し、唇を僕の耳元に寄せると、こうささやいた。

「私たちが初めて会った日のことを覚えている?」

「え、去年の体育館のこと?」

「違うの。私たちは、もっと前に会っているの」

「ええっ、全然気づかなかった。幼稚園とか、小学校とか、実は幼馴染だったとか?」

「ううん、そんな前じゃない。会ったのは、十年前の夏」

「・・・」


 僕の脳裏に、あの一夜の記憶がよみがえった。


「もしかして、美和は、あの時の、『牛姫』なの!?」

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