第7話 告白
本名も聞かずに別れたとはいえ、恋人が過去に身体の関係を持った相手だったことに、今の今まで全く気が付かないなんて。
「十キロくらいダイエットしたの。それに、私は紗理奈のおまけだったから、私のことなんて眼中になかったんだよ」
なるほど、紗理奈だからさるな、猿じいか。
美和は僕のことを一目で気に入ったそうだ。でも、先に猿じいが僕を指名してしまったので言えなくなってしまった。
「私が正直に言えば、紗理奈は私と豪くんを二人にしてくれたはず。でも、豪くんはきっとがっかりすると思うと、言い出せなかった」
それでも、僕と猿じいの間に何とか割って入るために、小幡に濃い目のハイボールを作ったのだそうだ。
「小幡さんが酔いつぶれれば、私も部屋に呼んでもらえると思った。彼にもひどいことをしちゃった」
僕の大学のバレーの試合を観に来たこともあるそうだ。
「見つからないように観客席の一番隅っこで観戦した。その試合で豪くんは躍動していた。本当にかっこいいと思った」
僕の試合を観て、美和は自分も変ろうと思ったそうだ。猿じいたちのグループから距離を置き、内部進学を止めて受験もし、大学では教職を取って小学校の先生になった。
「もう一度豪くんみたいな人に出会ったら、今度はちゃんとそばにいられるような人になろうと思った。今の私があるのは豪くんのおかげなの」
体育館で会った時、ひと目で僕と分かったそうだ。
「ずっと思い続けてきた人だもの。これは奇跡、こんなことは一生に一度、だから絶対に逃しちゃいけないと、勇気を振り絞ったの」
「とんとん拍子で豪くんとお付き合いできるようになって、本当に夢みたいだった。でも、私があの時の牛姫だってばれちたら絶対にフラれると思っていたから、それはそれで苦しかった」
変わったと言っておきながら過去を隠している自分に自己嫌悪し、何度か正直に打ち明けようとした。でも、結局今の幸せを失うのが怖くて、先延ばしにしてしまったそうだ。
「でも、さすがにセックスをしたら気が付かれてしまうと思った」
確かに、あの最中にボディシザーズをされたら、多分気が付いただろう。
「あの時はごめんなさい。私、あんなに気持ちよくなったの初めてで、自分でもあんなことをするなんて全然思っていなかった」
伊豆旅行では、胸のほくろやあの時の声は、部屋を真っ暗にして、声を出さないようにすれば大丈夫と思ったそうだ。
「でも、豪くんに触られて、すごく気持ちよくて、自分が分からなくなっちゃいそうで、怖くなって、つい突き飛ばしてしまったの」
許してもらえるとは思っていない。正直に打ち明けて、一度だけ抱いてもらって、それで終わりにしようと決めたそうだ。
美和は僕の肩に回した手に力を込めた。
「お願い。最後に、今夜だけ、抱いて」
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