第2話 進展

 二回目のデートは、イチョウ並木が都心の街を黄色く染め始めた頃だった。

 僕は二週間後に群馬県で行われる三千人ほどの大会で初マラソンに挑戦する予定だった。

 美和さんも走ることが好きで、偶然にも春先に同じ十キロレースに出場していたことがわかり、完走祈願に行こうということになった。

 二人で東京の原宿にある東郷神社に参拝した。御祭神は日露戦争でバルチック艦隊を打ち破った東郷平八郎元帥、「勝利」「強運」そしてなぜか「縁結び」にご利益があるという、今の僕たちにぴったりの神社だ。美和さんは、連合艦隊のZ旗がデザインされたこの神社の「勝守」を僕に貰ってくれた。


 秋の日は釣瓶落とし、茜色だった空が早々に紺色に染まった。夕食後、僕は代々木公園に彼女を誘い、人影もまばらな晩秋の公園の噴水前のベンチでキスを交わした。

 付き合い始めて一か月と少し、順調なお付き合いに調子に乗った僕は、美和さんにあつかましいお願いをした。


「美和さんがくれたお守りを持ってマラソンを走る。だから中に女神さまの下の毛をいれてくれない?」

 半分冗談のつもりだったが、美和さんはお守りを受け取り、林の中に入って周囲に人がいないのを確かめると、僕に背を向けてスカートをまくった。


 思わず僕は彼女を追いかけ、後ろから抱きしめてしまった。スカートの前はまくられ、腰骨の下まで下着が下げられていた。前に回した僕の右手は思いがけず美和さんの淡い茂みに直接触れることになった。

 

 僕は、彼女を抱えたまま木に寄りかかり、手をさらに下方に動かそうとした。僕の手首を握っていた彼女の力が緩み、僕は湿り気を帯び始めた彼女のその部分を直に掌で包み込んだ。

 彼女の膝の力が抜け、僕たちは絡まるように地面に転がってしまった。 どこがどうしてそうなったかのか、僕の顔のすぐ下に彼女の顔があり、右手は彼女の下着の中で相変わらず好位置をキープしている。

 しばしの逡巡の後、彼女はすっと瞳を閉じた。下肢の力が抜け、少しだけ開かれた両足の間のスリットに僕の中指が触れると、彼女は小さな声を上げた。

 いくら人通りがない林の中とはいえ、ここは公園、公共の場だ。ようやく働いた僕の理性が本能を押しとどめた。

 僕は立ち上がって彼女に手を差し伸べた。

「ごめん、転んじゃった。大丈夫?」

 彼女は、素早く衣服を整え、僕の手を取って立ち上がった。

「大丈夫じゃない」

「どこか痛いの?」

「違うわよ。これじゃ電車に乗れないわ」


 竹下通りで下着を買い、僕の悪戯で濡れてしまった下着を駅のトイレで着替えた。トイレから出てきた美和は、少し怒った顔で僕にお守りをくれた。

「入れておいたから、マラソン、きっと完走してよね」


 女神さまのご利益で、僕は、三時間四十六分十七秒という、初マラソンとしては望外なタイムで完走を果たした。

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