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「転校生の、数理的すうりてきイデアです」


 こいつの登場は全くの予想外だった。

 このイデアとかいう女、ボクのオリジナルかよと思うくらい、容姿が瓜二つだったのだ。いや、なんならぱっちり二重な分ボクよりレベルが高いかもしれない。


(※この表現はキミのバチバチに偏ったルッキズムに基づいて使っているのであって、別に奥二重の価値を貶める意図はないからね! ボクはキミが思い描いてくれたボクの顔面はどれも大好きです)


 というのも、最近のキミときたら変な自意識のこじらせ方をして、ボクのことを、まあ現実的にはこんなもんでしょ……くらいの娘みたいに造形しがちだったのだ。

 どんな高嶺の美女でも際限なく好き放題できるのがイマジナリーの強みなのに。


 赤コーナー!

 男子高校生特有の自意識で劣化しがちなイマジナリー美少女~脳から出られないけど宇宙で一番キミのことが大好きィッ!~

 Vsヴァーサス.

 青コーナー!

 妄想から抜け出した以上に好みドストライクなリアル美少女~運命のいたずらかなんと隣りの席になってしまったァッ!~


 オー・ヒューマン。

 結局のところ脳の電気信号でしかないボクは、ミチミチに詰まった塊肉には勝てないのでしょうか?


 だってボクは、机をくっつけてキミに教科書を見せてもらったり、ノートのはじっこにシャーペンを走らせて下手な絵しりとりをしたりできない。

 ましてや「この街に来たばかりだから案内してほしいの」なんて思いがけない誘いでキミをドキドキさせることなんて。

 いや妄想だからしようと思えばなんだってできるけど、甘い息遣いや髪の香りを肉的に感じさせるのは、やっぱり難しいわけ。


 とかなんとか言っているうちに、どんどんボクの造形がイデア現実側に寄せられていっているし。

 まだ、ぱっちり二重になって髪に軽くウェーブがかかったくらいだけど、ほかの要素が置き換えられるのも時間の問題のような気がする。

 ああ、やっぱり妄想は現実の代用品に過ぎないってことなんだろうか。


 それにしてもたった一日で距離を縮めすぎじゃない?


 キミは買い物をしたいというイデアを、地元のホームセンターに連れて行った。


 そしたらイデアときたら、わけわかんない量の買い物をするのだ。

 発電機に塩ビ管、養生テープに電線コネクター、プリント基板に、なぜかアルミホイル。飲料水に食料品も少し。


 袋詰めされた物量を目の当たりにしたキミは、勇気を振り絞って、荷物持ちを請け負った。


 こうやって現実の女の子に対して紳士的な対応ができるのも、妄想の中でいつもボクという美少女を好き放題に弄んでいるおかげってわけ。


 いや、だけどナイス判断だったと思う。

 この女、ボクと同じくらい可愛い顔をしてるくせに、ずいぶん治安の悪い所に住んでいるんだなあと、ちょっと感心してしまったから。


 地元では廃団地と呼ばれている一帯だ。


 ひと昔前まで、日中は気合いの入った悪ガキがたむろして、夜は夜で気合いの入った悪い大人が酒を飲み変な取引などをしていた、らしい。


 とはいえ警察の一斉摘発があってからはただの人気ひとけがないだけの廃墟スポットと化している。

 たまにマニアが写真を撮りに来ることもあるようだが、地元民(のイマジナリー的存在)なボクとしてはあまりおススメはしない。

 ギラついた感じの浮浪者が住み着いていたりもするので。


 イデアに導かれるがままついてきたキミも、そのことはよく知っていたので、道を間違えているんじゃないかと何回も聞いたけど、イデアは「大丈夫よ」と微笑むばかりだった。


 自分に向かってリアルな笑顔を向けてくれる生身の女の子に、キミはすぐに照れてしまう。まったく、ボクってものがありながら!


「ほら、あそこだから」


 イデアが団地の上のほうを指さす。

 ボクとキミは目を疑う。団地のてっぺんになにか突き刺さっている。


 あたりはもうすっかり暗くなっていたから、最初、貯水塔かも?と思った。だけど近づけば近づくほど違って見えて、黒い雲の間から顔を覗かせた月が全てを明らかにした時、ボクたちはその事実をいよいよ認めざるを得なくなった。


 斜めに突き刺さりながら、月光を銀色に反射させているそれは、間違いなく、典型的な円盤タイプのUFO未確認飛行物体、だった――。

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