第66話 季節限定アンサー(13)
【ダックリバー海園ホテル ラウンジ】
ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチの相手をラフィーがしている間に、ユーシアは『ダンジョン踏破王 マジ・コマチ杯』に参加するチームのメンバー(定員最大十名・交代要員最大三名)を緊急で決める。
競技の初戦が始まるまで、二十四時間を切っている。
アキュハヴァーラから誰かを呼び寄せるにも、必要物資を揃えるにも、先ずはメンバー選びから。
「俺と、リップ、イリヤ、サラサ、ギレアンヌ、レリー。エリアスは式神枠だから、俺のオプション扱いで済む。
これにサンダーサボテンズを加えて、九名。
残り一名」
一同が、ヴァルバラを見る。
二日酔いは改善されつつあるが、ヴァルバラは、お断る。
「シンジュ家は、ダンジョン踏破競技は、家訓で禁止なのです。生存者2%だった大昔に、一家の嫡子が戦死して以来の家訓です」
「何時の時代の家訓だよ。今は死亡率0・2%の安全競技なのに」
「五百人に一人は死ぬような競技を、安全とは言いません」
辞退しつつも、ヴァルバラは武鎧を封じた破魔矢を、リップに渡そうとする。
「こちらを、お使い下さい。練習用に用意した武鎧です」
「変身の条件は?」
「お嬢様の思念にのみに反応します」
「つまり変身アクセスは、勝手にしていいと」
「はい、お好きに」
リップは破魔矢を受け取ると、髪に簪のように挿してから、変身ポーズを構えながら変身ワードを発言する。
「変身! 爆発! ザ・シマパンの使徒!」
自虐の過ぎる変身アクセスだった。
イリヤとヴァルバラが、ユーシアの後頭部を二回ずつ、ど突く。
ユーシアは後頭部への鈍痛にもめげずに、リップの変身を見届ける。
リップの衣服の上から、レザーと軽量魔法金属の装甲が、体にフィットするように装着される。
カラーリングは、リップの髪色に合わせた、明るい緑色系統。
「レベル3以下の魔法を無力化するシールドを常時発動しています。物理攻撃は、並の剣撃なら五回、オーガの一撃でも一回は凌げます」
一同の脳内に、何処が練習用だよ?!
というツッコミが浮かんだが、考えるのをやめた。
ヴァルバラは性能を説明するが、リップとユーシアは、ヴァルバラが渡した武鎧のビジュアルを点検する。
「真下から覗いても、パンチラが発生しない。無粋だ」
「首周りのスカーフが、くどい。視界に入る」
話が逸れそうなので、各自が口を出す。
レリー「回復係がもう一人欲しい。ステージによっては、屋外もあるし」
イリヤ「ピンポイントで、敵の魔法使いを真っ先に狙撃出来るユニットが、欲しいであります」
サラサ「丈夫な前衛ユニットが、あと一枚欲しい。イリヤ一人では、壁役としてキツい」
話が長引きそうなので、一同は最寄りのコンカフェに突入した。
昼飯時である。
【ダックリバー海園ホテル フードコーナー】
大規模フードコーナーは、ホテル側で月替わりの店員サービスが行われていた。
ホテルが用意した今月の店員サービスは「メイド喫茶」
ユーシアは入り口手前で、紛らわしいから普段着に着替え直す。
入店するや、目立って仕方がない特徴の三人組を視界に入れて、真横に摺り足で接近する。
超絶美形の素顔を鉄仮面で隠したフラウ(ユリアナ専用鉄仮面メイド。現在は私服のアロハシャツ&キュロット)が、寄って来た美少年忍者に牽制の視線をくれながら、焼きうどん三人前をカイアン(巨漢の僧兵。メイドマニア)に手渡す。
「プライベートな旅行中で、尚且つデート中に失礼します」
笑顔で危ない用件を持ち掛けようとするユーシアを無視しながら、フラウとカイアンは卓に向かって昼食に入ろうとする。
断固として交渉を聞き入れない態度で、この疫病神を追い払って、休暇を死守しようとする。
ユーシアは無理をせずに、一番口の軽そうな三人目に、矛先を向ける。
「エイリン、修行の成果を試せるぞ。俺のチームに参加しないか?」
エイリン・ザイゼン(サリナの息子)は、唐揚げ五人前を運びながら、キッパリと断る。
「僕はカイアン先生と一緒に、観客席で観戦だ。修行中だし」
「競技の方が修行になるし、観覧するのも、参加チームのブースからの方が見易いぞ」
「僕はまだ、回復術士の能力を伸ばし切っていない。煽るな」
「? 回復術士?」
「カイアン先生に、他に何を教わっていると思った?」
「メイド服の見分け方かと」
「お前は一体、何のつもりで僕に声を掛けた?!」
自分の修行内容に無関心だったので、エイリンは結構傷ついた。
「エイリンには壁役、カイアンには回復術士、フラウさんには狙撃手として参加して欲しい」
ユーシアはエイリンの持つ皿を勝手に運びながら、席に着いて勧誘を続ける。
「残りの枠は一つなので、先ずはエイリンと。各層の状況次第で、カイアンとフラウさんに入れ替えて勝ち進む」
「お前って、息をするように勝手に話を進めるよな」
「効率的に話を進める、素晴らしい癖が身に染みていてね。
この競技で勝ち進み、サンダーサボテンズの自由を確立する。
開催者と他の参加者は、サンダーサボテンズを私物化する気だ。だが、俺たちが勝てば逆に、開催者の権勢を、後援者として得られる。
加えて、各ステージでリザルトを取れば、全国放送の生放送中に、枠を貰える。サンダーサボテンズにライブや宣伝をさせて、知名度を全国レベルで上げれば、今後も自立し易い。
今回の競技は、そういう賭けになっている」
そう前振りをして、エイリンの視線をサンダーサボテンズに移させる。
ドリンクバーで一服しているサンダーサボテンズは、ユーシアのアイコンタクトで、エイリンに向かって潤んだ瞳を集中させた。
サンダーサボテンズと見詰め合った途端に、周囲の視線が、エイリンの値踏みに寄せられる。
明日の『ダンジョン踏破王 マジ・コマチ杯』に参加する者たちの半数以上が、このホテルに入っている。
既に情報収集という鍔迫り合いが、始まっている。
エイリンの聴覚に、彼らの雑音がハッキリと届いてしまう。
「あの赤毛のガキ、美少年忍者と同じ類の化け物か?」
「十人目か? 控えかもしれんが」
「控えだろ」
「修行場で獣人化したのを見た。見かけよりも戦闘力が有る」
「リップ嬢の荷物持ちじゃん」
「尋常じゃないだろ、どうせ」
「俺が見た時は、包帯を巻いてばかりいたような気もするが?」
「包帯で巻き殺す能力者では?」
「槍の稽古もしていたけど」
「分からん」
「敷地外に連れ出して、ボコるか?」
「アホか、お庭番にカウンターで消されるぞ」
エイリンは、主に自分に向けられた雑音を吟味してから、ユーシアに返事をする。
「衛生兵として、参加する。給金は、参戦する毎に、払ってくれ」
渦中に触れて、エイリンは「面白い」と感じてしまった。
「一戦につき、二万円で」
ただし、タダ働きはしない。
「サラサに払わせる」
会話を盗み聞いていたサラサが、パイナップルを皮ごと丸齧りして、承諾のハンドサインを返す。
『ダンジョン踏破王 マジ・コマチ杯』に参加するチームとしてスポンサーを集い始めたサラサの懐には、既に暖かい資金が集まり始めていた。
エイリンの参加を取り付けると、ユーシアは無視を決め込んで昼食を摂るカイアンとフラウに視線を向ける。
ユーシアは、お邪魔にならないように、声だけをかける。
「ユリアナ様を、このホテルのお呼びしていいかな? フラウさんに会いたがっていたし」
フラウさんの手にしていた割り箸が、真っ二つに圧し折れた。
「旅先で、何をしているのかな〜って、本当に本当に心配していたから、巨漢のメイドスキーと泊まり込みで仲良くしていたって教えてあげると、安心して寿ぎに来てくれるよ。呼ぶ?」
フラウは無視をやめて殺意すら込めて睨みつけたが、カイアンは笑顔で代弁する。
「ユーシア。恐喝でフラウ殿から後日リベンジされるより、エイリンと同じく報酬で交渉してはどうかな?」
「お二人には、金品以外の報酬で、お迎えしたいのですが」
フラウさんは代わりの割り箸をカイアンから受け取って焼きうどんを完食し、ほうじ茶を美味そうに飲み干してから、ユーシアに返答する。
「一週間、余分に休暇を取るから、その間はユリアナ様のお世話をしなさい」
「了解しました」
その様子を遠隔で聞いていたユリアナは、食べていた海鮮焼きそばを咽せって、鼻から出してしまった。
「この私は、ダンジョンでの戦利品を、25%貰う」
フラウが参加を決めた途端、カイアンも条件を出した。
「ダンジョン踏破王って、ドロップアイテムが渋かったような気がしますが?」
実は今回、一番頼りにしたい人材に対し、ユーシアは低めの条件ではないかと危惧する。
「安全第一なので、早期のリタイアも有り得ます。それでも、その条件で構いませんか?」
カイアンは、目だけが笑っていない笑顔で、ユーシアの勘違いを糾す。
「ドロップアイテムではなく、戦利品の25%だ。この違いは、競技終了まで、留意しておいてくれ」
ユーシアは、その文言の『最もヤバい場合』を考えてしまい、ヤバ過ぎるので意識して忘却した。
「ここへは、エイリンの修行に付き合うだけでなく、このホテルを満喫する為に寄っている。観客として競技を楽しみたかったが、知人が何人も参加するのだ、少しは力を貸すよ」
カイアンは、報酬については蒸し返さずに、会話で他の流れに流そうとする。
「季節限定の催しに出会したら、逆らわずに堪能する事にしている。意外と、色んな縁に見舞われるものだ。時には、人生の答えにも出会す」
メイド服姿の店員を観察しながら『人生の答え』とか言われても、感銘は受けない。
「季節限定なんて言葉は、営業の為の修飾語かと」
「無粋を言うな。ノリの良さが問われている。見事な石像や木像を見たら、感動して原材料費を細かく問わないのと同じだ。ところで」
完食し終えたカイアンは、フラウさんが注いでくれた生ビールをジョッキで飲みながら、話を逸らし続ける。
「明日の競技は、モンスターが全て木製のゴーレムだそうだ。サリナ軍曹を呼んだ方が、有利に戦えると思うが?」
「木製?」
「ステージからモンスターが逃げた際の、安全装置だ。ドラゴンでも巨大悪魔でも、木製なら自警団でも討伐可能だ」
「え、でも、それって…」
サリナ軍曹なら、産後のリハビリとして、嬉々として話に乗るだろう。
火炎能力者として力を持て余しているサリナ軍曹が参戦すれば、お荷物を三人も抱えた状態でも、ダンジョン競技を完走する可能性は爆上げされる。
ただし…
「アキュハヴァーラから、戦力を引き抜き過ぎです。そこまで戦力を引き抜くと、ユリアナ様が
「其方に行った方が、ユリアナさんは安全ではなイカ?」
とか言いながら、一緒に来てしまうでしょう。
そうすると、わたくしの休暇は、終わってしまいます」
フラウは鉄仮面の眼鏡部分の曇りを拭きながら、ユーシアが迷わないように、牽制する。
しかしながら美少年忍者は、味方のお願いを平気で踏みながら、ダンジョン競技踏破の最適解を求めた。
「サリナ軍曹を呼びます。ユリアナ様が一緒に来る場合、フラウさんの負担を鑑みて、更に一週間、有給を肩代わりします」
十三人目が、決まった。
ユーシア(忍者。ゴールドスクリーマー)
リップ(噺家)
イリヤ(S級騎士)
サラサ(忍者。ゴブリン族)
ギレアンヌ(土建系魔法使い)
レリー(治癒能力者。ハーフ吸血鬼)
エリカリエ(芸能人)
トモト(芸能人)
ミキミ(芸能人)
エイリン(衛生兵)
フラウ(鉄仮面メイド、狙撃手)
カイアン(僧兵)
サリナ(火炎能力者)
フラウは鉄仮面でユーシアに頭突きをするのを堪えて、カイアンの手を握って平静を保ちながら、妥協してあげる。
「有給二週間分では、安いですよ。『饗応の試練場』への参加は」
「危なくなったら、引き上げますよ、絶対に。リップが一緒ですよ?!」
「何時でも逃げられると思い込む、その判断こそが、甘い」
カイアンは、過去七回のダンジョン踏破競技の経験者として、ユーシアを嗜めた。
「力を持て余した、大魔法使いの余興だ。盤上に上がる以上、悪趣味な展開は、覚悟しておけ」
カイアンは、飲み納めにもう一杯だけ、生ビールを求めた。
「観ているだけが、一番楽なのにな」
スガヲノ忍者 リチタマ騒動記2 九情承太郎 @9jojotaro
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