第4話 切られた前髪

 体育祭はいつの間にか終わっていた。僕は午前も午後も、ずっと一年の生徒席に座っていた。


 僕はどの競技にも参加しなかった。自分に呆れた。教師からも、同じ赤団の生徒たちからも呆れられた。お前は協調性がなさすぎると言われた。しかし僕は一切気にしなかった。所詮体育祭なんかどうでもいいのだ。


 帰りのホームルームの時間の後、僕は昇降口で山本先輩の姿を見かけた。


 いつも山本先輩は前髪を眉の上で揃えていたが、不自然なほど前髪がぐちゃぐちゃになっていた。


 山本先輩は誰かに前髪を切られたのかなと思った。ふと脳裏に朝、すれ違ったあの女子生徒二人組が思い浮かんだ。きっとあの女子生徒が山本先輩の前髪を切ったに違いない。


 僕はそう思った。


 山本先輩は落ち込んだようにゆっくりとした動作で靴を履き替えた。その時山本先輩が「きゃっ」と叫んだ。山本先輩は手で口を押さえていた。


 山本先輩のスニーカーに精液の入ったコンドームが入っていた。


 山本先輩はしばらく動けなかった。


 僕は山本先輩に近づき、山本先輩のスニーカーからコンドームを取り、地べたに捨てた。


 山本先輩と目があった。


 山本先輩は泣いていた。


 「今日は最悪な体育祭やわ」


 山本先輩は震える声で言った。


 「前髪も切られてしもうた」


 山本先輩はかろうじて残ったサイドテールを左手で触りながら言った。


 「なあ、あんたこれどう思う?うち、なんか悪いことした?」


 山本先輩は唸るように言った。


 僕は言った。

 

 「山本先輩は悪くありません」


 その後、僕は山本先輩と一緒に学校近くの公園に行くことになった。

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