第5話(終)
ワヌコは背後を振り返って、恐々とした。
肩に手を置くデスーワの微笑みは、なぜだか異様に黒々として見えた。
「ワヌコさん、お尻の毛を剃りましょうそうしましょうそうすればすべて解決ですわうふふふふ」
「えっえっデスーワなんできみオイラにそんな黒い笑みをむけてどうしたのオイラなんかやらかしたワン?」
「なんでもないですわよー常人の
「あっこれ根に持ってるヤツだワン!?
あまりの恥ずかしさに闇落ちして周りもおんなじ目に遭わせて自分の恥を中和しようとしてるヤツだワン!」
「シリダスさん押さえてくださいまし!」
「ごめんワヌコさん、僕らが助かるためにはあなたを強化する以外にないんだ」
「あっあっシリダスくん力強い!? 押さえ込まれるワン!?
尻を出したシリダスくんの100倍筋力はオイラの獣人筋力でもギリ振りほどけないワン!?」
「ワヌコさんお覚悟をーッ!!」
「ぎゃわーん!?」
デスーワは剣を振り、ワヌコの尻を流麗になぎ払った。
が。
「くっ、ダメですわ……! 刃こぼれした剣では、防具の役目も果たす丈夫な毛を刈ることができませんわ!」
「なんてことだ、ワヌコさんの尻毛の丈夫さがあだになるなんて!」
「尻毛って言い方やめてほしいワン!?」
「仕方ありませんわ、こうなったら……!」
デスーワは剣をしまい、両手の指をコキリと鳴らした。
「シリダスさん、付与魔術はまだわたくしにかかっていますね?」
「もちろんだよ。尻を出せば、あなたはいつでも100倍ステータスになれる」
「えっちょっ、デスーワ、何する気ワン……?」
デスーワはシリダスに組み伏せられたワヌコを見下ろし、両指をわきわきとさせた。
「むしりますわ」
「むしる!?」
デスーワは自身のズボンに指をかけた。
「100倍の筋力で力いっぱい引っこ抜けば、ワヌコさんの丈夫な尻毛もひとたまりもありませんわうふふふふ」
「ちょちょちょデスーワ! それでいいワン!?
きみは今から、尻を露出して人の尻毛をむしる人間になろうとしてるワンよ!? それでいいのかワン!?」
「常人の
全員で助かるために、ワヌコさん! お覚悟ーッ!!」
「ぎゃわ〜〜ん!?」
◆
そして、三名は大迷宮から脱出できた。
屋外は夕日に照らされ、大崩壊に巻き込まれた冒険者の救護活動が続く。
シリダスたちが詳細を知ったのはもう少し後だが、さいわいにして一人の死者も出ずに済んだという。
シリダスは、すがすがしく夕日をながめた。
その後ろで、デスーワはげんなりとして、ワヌコは尻を押さえて縮こまっていた。
「ワヌコさん、許してくださいまし……あのときのわたくしは錯乱していましたの……」
「大丈夫だワンよデスーワ……あれしか方法はなかったし、あんな状況じゃ、錯乱するのも無理ないワン……」
どんよりとした二名とは対照的に、シリダスはひたすらさわやかだった。
「ギルドを追い出された僕だけど、おかげで今まで縁のなかった人と組むことができた。
今まで気づかなかった欠点にも気づけたし、何事も経験なんだなぁ」
シリダスは振り返って、二名ににこやかに言った。
「デスーワさん、ワヌコさん! これも縁だ!
この付与魔術をさらに高めるため、もしよかったら、僕をあなたたちのギルドに入れてもらえないかな?」
「絶対お断りですわッ!!」
「ほぎゃーん!?」
シリダスは尻を蹴られて、吹っ飛んだ。
デスーワは機嫌悪そうに、ワヌコはちょっと申し訳なさそうにしながら、帰っていった。
シリダスは尻をさすりながら立ち上がった。
「うーん、いい出会いというのは、なかなか見つからないものだね。
けれどへこたれないよ。この世界のどこかに、きっと僕を待つ仲間がいるんだ!」
シリダスは元気に、駆け出した。
新しい仲間を求めて。
尻を出してくれる仲間を求めて!
後日、異世界から来た勇者が、世界征服をもくろむ魔王を尻を出しながら倒したりするのだが、それはまた、別の話。
【短編】最強付与魔術「尻を丸出しの間だけステータス100倍」使いの魔術師、恥ずかしいからという理由でギルドマスターからクビを言い渡される【残当】 雨蕗空何(あまぶき・くうか) @k_icker
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