第2話
街外れにあるダンジョン、通称「大迷宮」。
石造りの迷路のような構造で、魔術による空間のゆがみにより地下へ地下へと無限に伸びているといわれる。
最深部へはいまだ到達した者はおらず、S級ギルドメンバーでも踏破は困難といわれる一方、浅い階層は駆け出し冒険者でも楽に狩れる魔物が集まる、幅広い冒険者に需要のあるダンジョンである。
その大迷宮の中層で、シリダスは一人戦っていた。
尻丸出しで。
「くっ……いくらステータスが100倍とはいえ、後衛職の僕ではC級難度が精いっぱいか……!」
100倍の筋力で杖を振り、魔物の尻を叩いて撃退しながら、シリダスは息を切らした。
やはり仲間がいる。できれば前衛職がいい。
けれど都合よく、仲間になってくれる人なんて……
「そこの尻丸出しの変人! 邪魔ですわ! 道を開けなさいな!」
突然声をかけられて、シリダスは振り返った。
そこにいたのは、数人の冒険者パーティ。
その中でも先頭にいて目を引くのは、細身のパンツスタイルの服装に銀色の軽戦士装備を装着し、金色の縦ロールヘアーがきらきらと輝く、お嬢様のような冒険者であった。
シリダスはその人物の名を知っていた。
「神速令嬢デスーワ……さん」
神速令嬢デスーワ。
街一番の大金持ちの娘にして、A級ギルドに所属する実力者である。
その実力を担うのは高い敏捷ステータスで、一切の強化魔法がかかっていない状態でも常人の100倍の敏捷性があるとされる。
ゆえに、ついた二つ名が神速令嬢である。
神速令嬢デスーワは、シリダスの顔を見て考えて、思い出したようにぽんと手を打った。
「あなた、よく見ればS級の尻丸出しギルドの付与魔術師じゃないですの。
噂ではギルドをクビになったと聞きましてよ? 何をしていらっしゃるの?」
「あはは、まあ……
デスーワさんたちこそ、こんな階層じゃ実力に釣り合わないんじゃないですか?
ワープゲートを使って、もっと深い階層へ潜るものなんじゃあ……」
この大迷宮には、いくつかの階層に地上から直通で移動できるワープゲートが設置されている。
先人の冒険者が開拓のすえに設置した、人類の頑張りの証だ。
デスーワはため息をついた。
「そのワープゲートが不調で、深い階層に飛べなくなってるんですの。
これから原因を調べに行くところですわ」
「それはご苦労さまで……ん?」
ふと、シリダスの記憶に引っかかりがあった。
一時期S級ギルドに所属していた身として、小耳に挟んだ他国の事例。
前兆としてワープゲートの不調が見られたとされる、大災害の記録。
先を急ごうとするデスーワたちに、シリダスは振り向いて声を張った。
「待って、デスーワさん!
もしかしたらそれ、ダンジョンの大崩壊の前兆かも――」
大迷宮の床が、抜けた。
◆
「いたたた……尻を出してたから100倍の強度の尻で助かった……」
禍々しい紫色のがれきの中で、シリダスは尻もちをついた尻をさすった。
抜けた床から落下し、深い階層に来てしまったらしい。
「急になんですの……ここどこですの……わたくしのパーティはどこいったんですの……」
隣でデスーワも、腰をさすっている。
他に人はいない。バラバラに落ちてしまったようだ。
そしてシリダスには、この場所に覚えがあった。
「ここは……この大迷宮で冒険者が踏み込んだことのある一番深い場所。
暫定の、最下層じゃないか……!」
その言葉を聞いて、デスーワはこわばって周囲を警戒する。
まだ距離はあるが、魔物の気配がする。
とても強大な。
「なんてことですの……! 最下層の魔物など、A級所属のわたくしでも勝ち目はないですわ!」
デスーワはふるえる。
シリダスは考える。
最難関のダンジョンで、二人きり。
この状況を切り抜けるには。
「デスーワさんに……尻を出してもらうしかない……!」
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