【短編】最強付与魔術「尻を丸出しの間だけステータス100倍」使いの魔術師、恥ずかしいからという理由でギルドマスターからクビを言い渡される【残当】

雨蕗空何(あまぶき・くうか)

第1話

「付与魔術師シリダス。おまえはクビだ」


 ギルドマスターの剣士ケンシデスのその言葉は、付与魔術師シリダスにとって唐突にもほどがあった。

 シリダスは混乱した頭で、ケンシデスに食ってかかった。


「まっ、待ってくれケンシデス! クビ!? 何を言ってるんだ!?

 僕は直接戦闘は苦手だけど、付与魔術でギルドにかなり貢献してるだろう!?」


「その付与魔術が問題なんだ……!」


「何が問題なんだ!? 僕の、『尻を丸出しの間だけステータス100倍』付与魔術の、いったいどこが問題なんだ!?」


「恥ずかしいところに決まってるだろうがァァー!!」


 剣士ケンシデスは絶叫した。


「毎回毎回戦闘のたびに尻を出すんだぞ! 強敵を目の前にしてギルドのパーティ全員でおもむろに尻を出すんだぞ!

 恥ずかしくてやってられねーし女性メンバーも増えねーんだよコンチキショー!!」


「で、でも……このパワーアップのおかげで、このギルドはS級にまでなったんじゃ……」


「そうだよ!! なっちゃったんだよS級に!!

 俺らもともとC級かめちゃくちゃ頑張ってB級かって程度だったのにSだよS!!

 分かるか!? 前衛張る俺の気持ちが!? 本来の自分のステータスなら一撃で骨も残らずミンチにされるような強敵と張り合う俺の心労が! まかり間違っておまえの付与魔術が切れたりうっかり尻を隠しちまったら即お陀仏のその緊張感が!!

 二重の意味で股間が冷えるわ!!」


「うっかり尻を隠すのが怖いなら、最初からパンツをはかなければいいんじゃないのか?」


「やかましぃーわこの変態付与魔術師ッ!!」


「ぎゃふん!?」


 ケンシデスの回し蹴りがシリダスの尻を蹴った。


「てめーはいいよな後衛だから! 直接戦うわけじゃねーから! 尻を出すわけじゃねーから!!」


「僕のステータスを100倍にしても、たいして戦力にはならないし……」


 シリダスは深く考え、そしてこぶしを握りしめてケンシデスに宣言した。


「分かった! 次から僕も尻を出すよ!」


「出したくねーって言ってんだよォォー!!」


「ぎゃふん!」


 ケンシデスはシリダスの尻を蹴り、ギルドから追い出した。




   ◆




「はぁ……これからどうしようか」


 夕暮れの街を、付与魔術師シリダスはとぼとぼと歩く。


「新しいギルドに所属……でも雇ってくれるかなぁ……

 いっそ新しいギルドを設立……それも結局パーティメンバーを集めなきゃいけないし……」


 シリダスはやがて、立ち止まった。

 思い悩んでいた顔は、もう吹っ切れて前を向いていた。


「くよくよしたって仕方ない。やるしかないじゃないか」


 そしてシリダスは、ズボンを下ろした。


「仲間がいないなら、僕が尻を出すしかないじゃないか!」


「ギャーッ往来の真ん中で尻丸出しの男がーッ!!」


 にわかに騒がしくなった街中を、シリダスは100倍の敏捷性で駆けた。

 尻丸出しで。


 自分の能力で招いた不運なのだ。

 尻拭いは、自分でやってやる!


 そう、シリダスは決意した。

 尻丸出しで。

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