第3話 ダーウィン法

「泥棒だあああ!!」

 夜明け前のスーパーの倉庫

 ヂリヂリとけたたましい警報が鳴り響く

 

 食料と生活用品を確保することに成功したが

 最後の最後にヘマをしてしまった

 次々と襲いかかる警備員をバットで薙ぎ払いながら俺は出口を突き進んでいた

 

 

 

 突如国連が制定したダーウィン法によって

 社会に損失しか与えない俺たちは動物以下というレッテルを貼られた

 それでもなおしぶとく生きていた

 

 

 俺の前を車両が立ち塞がる

 

「フォークリフトが二台か」

 

 二台の間を縫って入ろうとするもその小回りのよさにそれも叶わない。

 

 ブォン!

 

 一台がフォークの爪を下げた状態で足を引っ掛けに来るのを俺はすかさずジャンプすると

 

「もう一台!」

 

 その先にもう一台が爪を上げて待ち構えていた

 

 周りの時間がゆっくりに感じる

 

 うまいことあの操縦席を狙うことができれば

 抱え上げたバットに力が入る

 

 直後

 

 ガゴォン!

 

 猛スピードで改造車のバンが柵を破壊し

 そのままの勢いでフォークリフトを横転させた

 

 スパイクのついたバンパーを筆頭にところどころに改造の跡が今の世界の狂気を体現していた

 

「樂悟、乗って!」

 

 

 

 彼女は相棒のスピカ。名前はこんな感じだが純粋な日本人だ

 

 俺は開いている後部座席に荷物を放り込んでから車に乗り込み、スーパーを後にした

 

「お前を給油に回しておいて正解だったぜ、ありがとな」

 

 手間を考えて二手に分かれて作業したのが思わぬ形で功を奏した。これで当分は走れそうだ

 

の材料も調達してきたよ!」

「でかした」

 

 

 ダーウィン法制定から一ヶ月が経ち、世の中も変わりつつあった


 当初は疑問視する声も多く社会問題視されていたが

 相手が政治家だろうが、教祖だろうがお構いなく排斥はいせきする活動ぶりに次第に肯定的な意見も見せ始め

今では社会体制の立て直しに必要だと言う声が挙げられてきた

 

 

 社害人を人としてみないようにする取り組みが行われ

 最近では社害人がゲーム感覚で殺せるよう音や映像がゲームのよう演出するグラスの開発により躊躇いなく俺たちを殺そうとする人間も増え、社害人たちはみるみるうちに姿を消していった

 

 

 気分転換に動画を見ようものなら

『社害人1人の死体につき1ポイント贈呈! 換金も可能30ポイントで豪華賞品も!』


 なんて広告も付くし

 YO!TUBEには社害人の処刑動画がトレンドに乗り、それを真似するものも増えていた

 

 「おいスピカ、逆走する気か!」

 「え!?あ、うんごめん」


 俺の前では明るく振る舞っていたスピカにもとうとう限界が見え始めていた

 

 無理もない、俺のように連日さまざまな人間に追いかけられてまともな神経でいられる人間の方がおかしいんだ

 

『人権保護団体アークと一緒に新天地に行きませんか!?横浜港でお待ちしております』

 

 脳裏に以前聞いたラジオの内容が過ぎる

 

「スピカ」

 

「横浜に行かないか?」

 

 ーーーーーーーーー

 

『人権保護団体』を名乗る集団と合流するため横浜港を目指すことを決意

 最短距離で1号横羽線を経由して東京から神奈川までの横断することにした

 

 

 一見高速道路を使うことに問題はないかもしれないが

 現在高速道路はあまり利用されてなく、その理由はいくつかある。

 

 ダーウィン法が制定されたことで無敵の人と化した社害人が我が物顔で利用し、人が寄らなくなったこと

 

 「いやでも会うと思ってたが、ちと早すぎやしないか?」

 

 早速、バイク乗りの団体と鉢合わせになった

 

 

「スピカ、ハンドルは任せるぞ!」

 

 バゴッ!

 

 ドアを開け、フルスイングで暴走族をぶん殴る。

 バイクごと勢いよく転がり、後続の車に轢かれていった

 

「助けて、窓から入ってくる!!」

「スピカ!」

 

 勝ち誇るまもなく、向かい側のドアにいたバイカーが窓から入ろうとスピカに絡みついていた。

 

「車内に入ればこっちのモンだ」

 

 このままでは入り込まれる

 

「この野郎!」

 

 ギュルッ!

 

 スピカの手からハンドルを奪い取り、変態野郎を壁に当てこすった

 

 ギャギャギャ! ドン!

 

 壁と人の摩擦により、男の体が外に引き摺り出されていった

 

 最後に何かを踏み登り、クルマが揺れた

 なんとか振り払うことに成功したものの俺たちに休息はない。

 

「社会のクズどもみーっけ! 大人しくポイントになれ」

 

 合流車線から入ってきたのだろう

 横から社害人ハンターの車がぶつかって壁に押し付けてきた

 

 社害人が高速道路を利用しない理由その2

 命の危機に瀕したとして逃げ場所がないから

 

 いくら補強しているとはいえバンでは力負けしてしまう。

 今度は俺たちがペシャンコにされてしまう

 

 横には人間狩り、後方には暴走族

 スピードは落とされ前には進めず、後ろに引けば最後

 

「スピカ!」

「わかった、カクテルだね!」

 

 スピカは徐ろにビンを取り出し、火をつけ、相手の車両に放り込んだ

 

「うぉっ!? なにを!? 火が」

 

 モロトフカクテル

 冬戦争でフィンランド軍が酒好きソ連に送った|上質な酒火炎瓶

 

 火炎瓶を放り込まれた相手の車は蛇行しながら後ろのチームに突っ込んで行った

 振り向いて一瞬見えた光景は車が暴走族の一団に接触、特大にクラッシュする姿だった

 

 ドオオオオオオオオオ!!

 

 

 時速80で走ってるにも関わらず、背中で熱気を感じ得た

 

 カーチェイスを終えた俺たちは無事高速道路を降りることができた

 

 しかし、そこに待ち受けていたのは

 

 

「大方、人権保護団体に助けを求めようとしたのだろうが貴様は包囲されているのだよ。ゴールは目前だったのに残念だったな」

 

 公営の人間狩りが勝ち誇った顔で降りてきた

 高速道路を利用しない理由その3、出入り口を封鎖されるから

 

 

 一見すれば絶体絶命のピンチ

 だが、俺には勝算があった

 

「残念なのはお前だ」

 

「何を言っている? 銃を持った人間に包囲され、この場を切り抜けるだと? 映画じゃあるまいし」

 

 俺と駆除業者を取り囲むように人権保護団体が囲んでいた

「これだけ騒ぎを起こしたんだから駆けつけて当然だよな」

 

 ーーーーーーーーー

 

 横浜港についた俺たちを出迎えるように

 そこには巨大な船が停泊していた。

 

「早くしてよ、樂悟後が支えてるでしょ」

「いや、俺はここまでだ」

 

 え?

 沈黙から困惑したようにスピカがやっと声を絞り出した

 

「前にも言ったろ? 社会が追いやられた人間が群れを作ったところで同じ歴史を繰り返すだけだ。職員さんあと頼む」

 

 船に連れて行かれるスピカが何かを叫んでいたが、俺には聞き取れなかった。

 

「じゃあな、幸せに暮らせよ」


 車を取りに行く前に用を足そうとトイレによる途中団体の立ち話が聞こえた

 

「本当にアイツら人間扱いされると思ってるんだから笑えるよな」

「人工島開発の労働力として社害人を使うなんて社長も天才だよな。」



どうやら一番の甘ちゃんは俺だったみたいだ


 

 船は新天地に進んでいた。希望を胸に船に乗り込んだ者たちは絶望していた


彼らが一縷の望みを賭けた船は奴隷船だったのだ

 

誰しもが絶望していると船体が大きく揺らいだ


船内放送で男の声が聞こえる


「スピカ聞こえてるか!お前をここに連れてきた責任、果たさせてもらうぜ!」


船は沈み、海の藻屑となった

 


 

 

ダーウィン法という法律があった

 

 社会レベルを著しく下げ、生物としての進化を妨げる厄介な人間を排除することで世の中を立て直すというお題目で作られた法律は進化論者での名に因んで名付けられた


 

 雁足園 樂悟とスピカは無人島で逞しく暮らしていた


人類とは別の種として彼らも進化しようとしていたのであった

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