第2話 謳歌

 とあるファーストフード店

 都市部ということもあり、平日の昼間でもそれなりに賑わっている

 どこにでもあるような平凡な日常

 

「ダブルバーガーセットのお客様〜」

 

 ドンッ!

 

「おい、なんだキミは! これは俺が注文・・・」

 

 激昂するリーマンだったが、俺の顔を見て血の気が引いていた

 

「あ、あいつだ!」

よ! だれか警察か駆除業者を呼んで!」

 

 ダーウィン法

 

 社会不適合者や犯罪者を対象に人権を剥奪する法律である


 

 政府の力の入れようは凄まじく、数年前から様々なアンケートに偽造して社会不適合者を水面下でピックアップしていたのだ

 

 一説には増えすぎた人口を減らすための政策やら強力な後ろ盾を持った反社へのカウンターだの言われているが俺としてみればどうでも良かった

 

「平和ボケしてやがんな。もうダーウィン法は始まってんのによ」

 

 学校を辞めてから人間扱いされなくなった俺にとって

 何の痛手も感じないどころかただ飯を食い、欲しいものをなんでも手に入れることができるのだからある意味この法律には感謝していた

 

 

 がらんとなった店内で俺は悠々と昼食を済ませると

 いつの間にかハンバーガーショップの周りに人だかりができていた

 

 

 俺を見せ物のように見ているこの連中もそうだ

 

 皆他人事だと、まだ自分たちがこの理不尽とは関係ないと思っている

 

 一切の人権もないということは裏を返せばどんな犯罪もやりたい放題なのに

 どういうわけか自分たちは対象者じゃないから、何があっても関係はないという顔でいる

 

 

 

「みなさん逃げて! 離れてください!! バット持ってますから離れてください!」

 

 誰かが通報したのか警察が駆けつけてくる

 それでもまだ臆することはなかった

 

 人間でなくなったとはいえ

 せいぜい俺は街に降りてきた猿やイノシシ程度の扱い

 法に適応されない俺を警察が捕まえる理由がないのだ

 

 それにこいつはまだ俺を人間を見る目でいた


 警察が来る逆方向に向かってバットを片手に俺は走り抜ける。

 

 蜘蛛の子を散らすように野次馬たちは道を作ってくれた

 人混みで動けない警官を尻目に俺は出口を目指した

 

「応援が来てたか」

 出口付近に応援にきた警官たちが待ち伏せていた

 警官が3人、思ったより少ないが

 あちこちで俺みたいな人間がいると思えば人員も割けないのだろう

 

 うち1人が拳銃を構える

 

「止まれ! これは脅しではない! 撃つぞ!」

「撃ってみな、ギャラリーに当たるかもしれないがな!」

 

 警官の怯えた態度を見てそれが虚勢であることは十分わかっていた

 

 震える手で銃を構える警官に、俺は上体を捻ると 

 

 ガコォン!

 

「負傷者一名! 至急応援を!」

 

 運動部と引きこもり中に鍛えた筋トレの成果を見せながらウィニングランを決め込んでいた

 

 

 やはり体を動かすのは気持ちがいい。

 腹ごなしの運動にはぴったりだなと街を散策していると

 裏路地で女性の声が聞こえた

 

「ちょっと! は、離して!離してよ!」

「いいじゃねぇか嬢ちゃん。悪いようにはしねえからよ」

 

 見た目高校から大学生っぽい女子がおっさんに絡まれている

 どっちが社害人なのかわからないな。社害人が女を襲っているのか、人権がない女だからと襲っているのか、それとも両方とも社害人かもしれない

 

「別に迷うことじゃないか。」

 

 ゴガッ! ゴッ!

 

 本当ならを殴らないよう迷うところだが、生憎俺に法律は無縁だ

 こういう時『社害人』は気を使わずに済む

 

 暴漢が動かなくなったことを確認していると女が俺に礼を言ってきた

 

「あ、ありがとう」

 

 彼女の名前は乙女と書いてスピカと読むらしい

 親が多額の借金を抱えたまま死んだことにより娘がその借金を背負うこととなり、それが原因でダーウィン法に引っかかったようだ

 

「礼とかいいからもう絡まれるなよ。」

 

 遠回しに目の前から消えろと催促するが彼女は退こうとしない

 

「助けてもらったら礼をするのが常識でしょ!」

 

 こいつは

。未だに自分が人間だと思っているからトラブルに巻き込まれるのだ



 なんでもするっているなら叶えてもらおうか

 

「一泊でいい、安全に寝泊まりできるところを手配してくれ」

 

 

 

 彼女は面食らった顔で「そんな願いでいいの?」と聞き返された

 

「今の俺はホームレス以下の存在、ホームレス狩りどころかホームレスにまで襲われかねん。早く手配してくれ」

 


 

 キラキラネームの女子の案内に従って俺は路地の奥へ奥へと進んでいった

 

「そうだ、女連れの男だ。あの男を尾行しろ・・・雁足園 樂悟、必ずお前に罪を報いてもらうからな」

 

 

 しかし、おれもまた甘かった尾行する影に気づいていなかったのだから

 

 

 

「ここが私の街よ!」


 

 彼女には悪いがまるでネットで見たZチャンネルをそのまま現実に移し替えしたような街だ

 


 連れてこられたのは、古びたパブだった

 

 思ったより広く、生活するには快適だった

 無人の家に勝手に住むのはここでは珍しいことではないのだろう

 

「電気は通ってるから充電していいよ。飲み水はこのボトルのを使ってね」

 電気は盗電したもののようだ

 なるほど、逞しいな

 



 

「もう寝た?」

 俺が寝ようとした時スピカが俺に話しかけてきた

 

「あなたがよければだけど、ここで一緒に暮らさない?」

 

 藪から棒に何を言っているんだ


「人と群がって暮らす必要がどこにあるんだ?」

  

 

 所詮は社会不適合者の集まりだ。たまたま同じ場所に群がって暮らしてるだけ、この街だって人数の割には活気がなかった

社会性とか集団としてのコロニーとは呼ばない

 

「1人よりも安全に暮らせるじゃん。確かにみんなお互いに距離を置いてるけど」

 

「社会が追いやられた人間が群れを作ったところでそこでもまた仲間はずれができるだけだ」

 

 「・・・」

 

 夜が明けたら街を出よう、そう決意した時外から悲鳴が聞こえた

 

 

外を見てみればあちこちの家が襲撃されていた



「ここに雁足園 樂悟という男が逃げ込んできた!大人しくそいつを連れてこい!」


外に出ようとする俺の前にスピカが立ち塞がる


「ダメよ、ここで大人しくしていて」


「お前はよくても周りは良くないって言ってるぜ」


住民たちは俺に対する恨み節を吐きながら人間狩りに協力している



スピカの静止を振り切り


「久しぶりだな樂悟」

俺はこの男に見覚えがあった、妹の彼氏だ


「言われた通り出てきてやったぞ、襲撃をやめろ」


しかし、襲撃者の攻撃は一向に止む気配がない


「おい、話が違うぞ」


「誰がやめると言った!お前のせいで母親は死に、父親は病院送りだ! お前がしてきた罪を噛み締めながら死ぬんだな、社会不適合者め!」


 向かい撃つ俺を後ろから何かが動きを止められた

取り巻きに羽交い締めされたのだ


「こいつ!」


 慌てて後ろの取り巻きを肘打ちし、金的で倒したところで俺は大きな隙を作ってしまった


 「油断したなぁ、雁足園!死ねえええええ!」



 俺を押し倒すと渾身の力で首を絞められる。

 バットは手が届かない距離




薄れゆく意識の中、トドメと言わんばかりに力が加わっていく


 ゴガッ!

 

直後、俺にかかっていた手の力が抜けているのを感じた


見れば先ほどまで首を絞めてた男が俺に覆い被さり、目の前にはバットを持ったスピカがいた

 

「ね、ねぇ。アレ死んだの?」

 

「いや、生きてる。後遺症はあるだろうがな」

 

 

 

戦いを終え、

襲撃者からバンを奪い取ることに成功

居住兼移動手段を手に入れた俺はこの街を出ることにした

 

車に乗ろうとした時、昨日の女が俺に声をかけてきた


「旅に出るんでしょ?私も連れてってよ」


昨日の戦いで彼女も思うところがあったらしい


「私が居なければ色々危なかったでしょ!これからも助けるから連れてってよ」


なるほど敵わないな、俺は彼女を連れていくことに決めた

一人よりも二人、案外いいかもしれない


「ところでさ、免許あるの?」

「ないけど、運転の経験はあるぜ、ゲームの中でな!」


スピカの悲鳴を置き去りに車は新たな旅路に向かっていった

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