人間クビになったけど、楽しく暮らしてます
@sepatacrow
第1話 罪と罰
俺の名前は
ニート歴三年の引きこもりだ。
高校を退学した俺は職にも就かず実家でゴロゴロしていた
社会では被害者側の一回の暴力の方が半年にわたる暴力を含む嫌がらせよりも罪が重いらしい。
中学で野球部のエースで野球部の強豪校に入学して、プロ野球選手を目指す人生は一発のパンチによって幕を閉じてしまった
一族の誇りだの期待されていた頃とは一変
廊下でたまたま会っても嫌な目線を送られるだけで一言も声をかけてはもらえなくなった
家族との接触を避けていくうちに俺の生活リズムはついには昼夜が逆転してしまった
当然、いじめた連中はなんのお咎めもなく、風の噂では高校を出た後は地元のヤンキーとして幅を利かせてるそうだ
退学した後も親友との交流はまだ続いており、所謂コミュ障にはならずにいたのがせめてものの幸いだろう
(やはり退学した事実をあいつに話したほうがよかったかな)
教師から釘を刺され退学理由は誰にも打ち明けてない
唯一の親友にすら未だ事件の真相を明かせなかったことだけが心残りだった
現実で孤立した俺の居場所はネットの世界だけだった
大型匿名掲示板Zチャンネル
ネット黎明期に生み出され今もなお世界最大級の匿名掲示板だ
人が多いだけあって、この時間でも書き込みは絶えることない
『親が金をくれないので親を殴ってみた結果』
『取引先でやらかして一千万損失を出したことまだ会社に言わず連休突入したんだが』
匿名ということもあり無責任な発言や行動を起こすことが娯楽になっているこの場所では掲示板に書かれてる事はウソ話だと思い込んでる
その中には本当の話もあるのだろうが、嘘であってほしいようなクズな武勇伝みたいなスレをよく見かける
そんな俺たちにも法や社会に守られていることを当たり前だと思えたのは幸せなことだったのだろう
その時はまだこんな日々が続くとばかり思っていた
「? なんだこのスレッドは」
俺は異質なスレッドを見かけた
【悲報】ダーウィン法が制定される
「なんだこのスレは?」
普段から見向きもしない話題だったが、その時の俺はなぜか見知らぬ単語に惹かれ、気がつけば俺は一連の流れを斜め読みしていた。
「この度政府は社会に不必要な人間を対象にニート、犯罪者、社会のトラブルメーカーから人権を剥奪します? 該当するマイナンバーはこちら?」
慌てて部屋の隅に放っておいたマイナンバーを確認してみる
偶然かは知らないが、俺の番号も含まれていた
『ニートワイ、人権が剥奪される模様』
『日本も対象内に入れたのが詰め甘かったな。日本は無期懲役の大罪人にも恩赦くれる優しい国やで』
社会に何の貢献もせずに好き勝手生き、いざ自分が窮地に立たされたら国に泣きつく
本当に殺されかねないクズなのにまだ嘘話だと笑えている
該当者を名乗る人間がチラホラいたが、いつも通り住民たちはふざけ倒していた。
しかし、今日の掲示板の様子はいつもと違っていた
『あれ? 仕事バックれ兄貴と親殴り無職兄貴どこ行った?』
そう、掲示板内のスレッドが一斉に止まったのだ
『なんか他のスレ止まったんやが、みんなで俺のこと騙そうとしてる?』
『今頃マジで刺されちまったんじゃないの?』
『この時間にすげー勢いでノックされてるんだけど』
ドンドンドン
タイミングよく背後のドアからノックする音が
あまりにもタイミングが良すぎるだろ
「樂悟、ちょっといいか」
ドアの向こうから父親の声がした
「お前にも不憫な思いをかけてすまなかった。少しでいいから話でもしないか?」
名前で呼ばれたのは何年ぶりだろうか俺は思わずドアに手を伸ばしたが、ふとダーウィン法の単語が脳裏をよぎった
「・・・」
ガチャ
少し迷ってからドアの鍵を開けた
父親と面と向かって顔を見れたのはいつぶりだろうか
「父さん」
扉の死角にバットを隠してある、父親が少しでもおかしなことをした瞬間、これで叩く
「樂悟」
側から見れば感動のシーン、映画ならこのまま抱き合ってエンディングだろう
しかし、父親の手には包丁が握られていた
「父さんたちと死のう。来世では真っ当な人生を歩んでくれな」
父親は責任感の強い人間だった
この不手際を清算するつもりだ
まだ死ねない、とバットに手を伸ばそうとする
すると
「やめて!」
一瞬の出来事だった
俺と父さんが相対するところを母親が介入
包丁を持った方の腕を掴んでもみくちゃになり
母さんは刺され
俺の前で倒れた
「樂悟ぉ、これでもまだ生きるつもり、が!」
動揺する父親にすかさずスイングを入れた
倒れた両親を前に俺は逃げる支度をしようとした
が
「お、お兄ちゃん?」
騒ぎで妹が起きてしまったようだ
床に転がる両親と、手に持っているバットで全てを悟ったようだ。
「梨花、救急車を呼んでくれ。俺はもうお前の兄貴じゃない」
俺は逃げるように家を出た
家の外はまだ肌寒く、街灯だけが頼りだった
顔見知りの多い地元にいるのは危険だとあまりにも危険だ
さらに言えば住宅街では食料の確保にも向いていない
どこか遠くに行こう
「樂悟」
俺を呼ぶ声に身構えるも、顔を見て俺は安堵した
この男は
文武両道で成績優秀。
俺が学校を追い出された後も遊びに来てくれた親友だ。
「樂悟、お前無事だったんだな」
俺を殺しにきたのかと思ったが、どうやら何かの間違いで対象者になったらしい
優等生も変なレッテルを貼られに追われる身となってしまったのだ
ここまで来るのに
俺の手で殺せなかったのは残念だったが
仲間ができて初めて安堵することができた
「お前も災難だったな、退学さえしなければお前だけでも無事でいたのに」
後悔はないと返すと
「あいつら自転車事故の治療費を惜しんでちょうど同じ日にケンカしたお前に支払せようと仕組んで、その結果お前は退学になるんだもんな」
え?
俺も知らない事実、そもそも向日島はあの二人と仲が悪かったはずだ
「傷害事件についてお前にも話していなかったはずだがなんで俺よりもお前が詳しいんだ?」
沈黙が流れた。
「あ、あの事件の後あいつらから話を聞いたんだ。俺、あいつらと仲良いし」
「お前、いつの間にアイツらと仲良くなってんだ?」
ここにきて向こうも自爆したことに気づいたらしい
向日島は裏で不良と連んでて、自分は手を汚さない代わりに教師にイジメの事実が届かないようにしていたことを全て話し「許してください。」と土下座してきた
「もう過ぎたことだ、気づけなかった俺も悪かったしな」
謝り倒す彼を俺は許した。
と言うと向日島は「本当か」と顔を上げた
俺は恨んでない、むしろ感謝してるくらいだ
「クズ相手なら良心も傷まないからな」
ゴガッ!
俺のミート力は衰えてなかったようだな
夜は明けていく
まるで人生の全てのしがらみから抜け出した俺を体現するかのように
翌朝
人気者だった彼の周りにはいつも人が集まっていた
「行政は何やってんだよ。早く片付けろって」
「朝から嫌なもの見せやがって、気持ち悪ぃ〜」
「たっくん、見ちゃダメよ」
ゴミ捨て場に転がる彼らは大きな注目を集めていた
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