第4話『森の秘密を探りに』
おつかいから数日。雨が降ったり止んだりの、どんよりとした天気が続いている。
ソラの言ってた天気予報は当たっていた。すっきりしない天気は、今の私の心の中のようだ。普段のように神社で仕事をしていると、
やっぱり、あの森が気になるのよね。なんというか、あの森は、ただの森の再現をしているだけの場所には思えないわ。
風景が気になることは割とあることなのだけど、それは東雲以外での話。東雲でここまで
それを解決するため、散策と
玄関
新たに置かれているランタンは、小さな
薔薇の方がフェネル、菫の方がスミレなのだろうと持ち主の推測ができる。
今日はふたりとも、店に居るのね。
扉に手を掛け、ウィンドチャイムの奏でる音と
彼女は、手に取っている
「こんにちは、
「あらスミレ、こんにちは。どうしてもこの森のことが気になっちゃってね。今は、店番をしているの?」
「ええ。フェネルが『スミレもたまには店の手伝いをしてくれよぉ』って言ってたから。私は
「メィリィ、今日はいないのね」
「眠っていたから、そっとしておいたのよ。
「優しいのね」
「そうからしら? 普通のことだと思うけど。森について知りたいなら、作った本人を連れてくるわね。立ち話もなんだから、ついでに飲み物も持っくるわ。ちょっと待っていてね」
そう言うと、苔玉を空中に戻してスミレは森から出ていった。
ひとりになった私は、不思議な森を
「……あれ?」
森の様子が、おつかいの時と違う。
前後左右に
私は神社の
――この森は、魔法の
装飾目的の森は、限りなく本物に近い
今私がいるこの不思議な森には、そんな空気が感じられないのだ。魔法の塊で出来ているのは、スミレの口から聞いているからそうなのだけど、それだけならば、森に囲まれて育った私には装飾用の森と映るはずだ。だけど、この森にはそれを感じない。
――この森は、生きているのだ。
その確信が持てた頃、スミレが緑
もうひとりの女性は、時折妹と話しているのを見る。
「おーおー、これはこれはぁ。誰かと思えば、巫女のお姉さんじゃないかぁ。珍しいねぇ」
「森を作った張本人を連れてきたわよ」
「フェネル、こんにちは」
「こんにちは、私の店にようこそぉ」
「飲み物、紅茶とレモネードくらいしなかったのだけれど、それでいい?」
「ええ、大丈夫よ。レモネードの方を頂こうかしら」
「わかったわ。飲み物用意しないとだから、座りましょ」
「座るところは、ここだねぇ」
フェネルが指を
「ありゃあ……これ、ふたり用だったねぇ」
スミレも同じこと言っていたなと思いつつ、フェネルはどうするのだろう? と展開を見守る。
「しょうがない、空気
同じ魔法を使うのだろうか。テーブルセットの方を見ていると、その答えが姿を現す。
ガーデンチェアが3個に増えた。空気のクッションを作る
「うんうん、これでみんな座れるねぇ。私は、自分で出したのに座るよぉ」
皆で椅子に
お茶といっても紅茶の
「この森のことなら、なんでも聞いてねぇ。そう、スミレにも言われてるからねぇ」
「それじゃ、色々聞かせてもらうわね」
「おーけー」
「まず、ここにはどんな魔法が掛けられているのかしら?」
「私が掛けているのは植物関連と景色関連の
「植物関連はねぇ、苔玉を浮遊させていたり、この苔玉とか
「この苔玉は、フェネルが売っている商品の見本よ。はい、レモネード」
「ありがとうございます」
飲み物が出来上がったようで、スミレが会話に入ってくる。飲み物を受け取ると、フェネルは話を再開する。
「幻視関連は、見えている森の景色と
「やっぱり、色んな魔法が掛けられているのね」
「やっぱり……?」
フェネルが首を
「それは紅葉に説明したわ。ついでに『もっと聞きたいならまた来るといいわ』って言ったのよ」
「おや、1回来てたんだねぇ」
「ええ、あなたのいないときに1回ね」
「ウィスタリオン(5番目の月・東の大陸以外での呼び方)の24日かぁ。てっきり
「私の説明不足だったわ、ごめんね」
フェネルに伝言するときに、ちょっと誤解があったみたい。別に私には何の
「そういえば、もうすぐ
「ロンラノン(6番目の月・東の大陸以外の呼び方)の5日よ。ちゃんとここでも再現してるわよ」
「もうすぐだねぇ。この森だと、どういう風に見えるかなぁ?」
「月蝕があるの?」
「ええ。珍しいことだから、紅葉も見てみたらどうかしら? 真っ赤に染まる月は神秘的よ」
「へぇ、見てみようかしら。月蝕が起こるのはロンラノン? の5日だったっけ? それって、いつなの?」
「ロンラノン……こっちだとなんだったっけなぁ? えーと……そう、
「来月の5日なのね。晴れるといいんだけど……」
「雨が多い月だものね」
「ごめんごめん。月蝕の話を出したから、話が
少しが話が逸れてしまったなぁ、と思っていると、話題を本筋から逸らしていたフェネルが軌道を修正してくれた。
「いい話が聞けたから問題ないわ。それじゃ、また質問させてもらうわよ」
「なんでもおいでよぉ」
私は本題に踏み込む。ただの装飾じゃない、この森の秘密を探るために。
まずは一発、軽く探りを入れてみよう。
「この森って、どこかモデルにしているところがあるの?」
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