第2話『店探し巫女』
石段の最後の一段を下りて鳥居をくぐると、通りを右に曲がる。朝食時なので
しばらく道なりに歩くと
店を
彼が店にいたので、情報は聞き出せるだろうと、とりあえず一安心する。
「いらっしゃい。珍しい客だね」
店に入ると、彼は店員らしく
「その言葉、そっくりそのまま返すわよ。あなたが店番しているなんて、珍しいじゃない」
「
「あら、神主になんて言われたのかしら?」
ちょっと興味を引かれたので
「別に大したことじゃないさ。んで、今日は何の用だい? この店の物を買いに来たんじゃないんだろ」
いとも簡単にはぐらかされてしまった。別にこれは本筋じゃないし、またの機会でいいか。
「ええ、ちょっと聞きたいことがあって」
「稲斗に言われたことか? それは答えないぜ」
「それじゃないわ。聞きたいのは、フェネルの店のことよ」
それを聞いて、彼は少し
「ほう、何でそんなことを聞く?」
「おつかいを頼まれたのよ」
「おつかい?
「妹よ」
「
「神社の植物を
それを聞いた彼は、合点が言ったというような顔になった。
「ああ、植物関連か。そりゃ納得だ。フェネルはこの辺……いや、この地方、そして皇国で
「まさにそれよ。おつかいを頼まれたのはいいけれど、
「まあ、そうだろうな」
「ソラは場所を知っているの?」
「ああ、もちろんだ。フェネルの店だが、立地が普通にわかりにくい。正確には、わかりにくいようにわざとその場所に店を構えているって感じだな。客も魔法使いか、店の場所を知っている常連くらいなもんさ。店に行ったことがない
「それで、どこにあるのよ?」
「まず、俺の店みたく通りとか参道に面してないから、路地に入っていかなきゃならない」
「なるほど、どうりで場所を知らないわけだわ。里に下りても、大きな通りしか歩かないもの」
「路地とかに住んでいない限り、普通はそうだろうな。そんでもって、仮にそこに入り込んだとしても、簡単には見つからない」
「なんでよ?」
「店に看板なんてもんはないし、外見は民家そのものだ」
「それじゃあ、見つからないじゃない!」
「まあまあ、続きを聞いてくれよ。確かに、場所を見つけるのには少し苦労するかもしれん。ただ、店の前まで行けば簡単に見分けがつくのさ」
「え? どういうことよ、それ」
なぞなぞを突き付けられたような気分になる。
さっきまで散々見つかりにくいという話をされていたのに、いきなり見つけやすいと言われても困る。
「簡単な話だよ、これだ」
彼は、液体で満たされているガラスの
「これって、ランタンじゃない。これがなんだって言うの?」
「ああ、ランタンだ。これが
「それだけ……?」
「ああ、それだけだ」
「理由はあるのかしら?」
「ああ、あるぜ」
私は彼の意図が全く理解できない。ランタンと店と何の関連があるのだろうか? 仮にあるのだとしても、それがどういう意味なのかは察しがつかない。
「それとフェネルの店と、何の関係があるのかしら?」
「もちろん、関係ある。俺もそうだが、フェネルも魔法使いだ」
「確かにそうね。でも、魔法使いとランタンに何の関係があるのよ?」
まだ、彼が何を言いたいのかわからない。魔法使いととんがり
「魔法使いは夜間飛行をするときに、明かりを灯して自分の位置を他の魔法使いに知らせるんだ。その手段で一般的に使われるのがランタンなんだよ」
ソラの答えは、とても普通で納得できる理由だった。
夜空には時折、星ではない動く光が見える時がある。その光がランタンの明かり、ということなのだろう。夜の
「魔法使いの
「ああ、そうだ。日常でも夜の灯りになるから便利なのさ。俺もよく使うから、こうやって店のカウンターに置いてるんだ、手に取りやすいようにな。ついでに言っておくと、“東の大陸”チェルナーでランタン持ってるのは、魔法使いかよほどの物好きくらいだ」
「ランタン自体、珍しいものね。」
「ああ、この皇国では魔法使いが少ないからな。当然ランタンを持っている人も少ないのさ」
ここまで言われて、彼が何を言いたいのか気付く。
「東雲だとあなたとフェネルくらいしかランタンを持っていないっていうこと?」
「ああ、そうだ」
「だから、ランタンが置かれている民家がフェネルの店ってわけね」
「そういうことさ。魔法使いが少ないのに、ランタンがふたつもあるなんて普通はあり得ないんだよ」
え? フェネルってふたつもランランを持っているの?
「ふたつ? なんで?」
「あー、フェネルとスミレが一緒に住んでるのを知らないのか」
「スミレ? ……誰?」
「そこからか。フェネルの店にはスミレっていう魔法使いも住んでいる。なんでも、フェネルと魔法学校が同期で仲がいいらしい」
「へぇ、東雲にはもうひとり魔法使いがいるのね」
「まぁ、スミレはほとんど外出しないからな。フェネルの店にでも行かない限り、知らないのは仕方ないことさ」
スミレという
「てことは、フェネルの店に行ったら、大体スミレがいるってこと?」
「まあ、そういうことだが……」
ソラが言葉を
「何かあるの?」
「いや、大したことじゃない。スミレは魔法研究に熱心だから、店にいるとは限らないんだよ」
「どういうこと?」
「部屋に
「それなら大丈夫よ。私、運は悪い方じゃないから」
「そうか、
「ありがとう、ソラ。それじゃ、フェネルの店を探してくるわ」
「見つかることを祈るぞ」
彼は元の位置にランタンを戻す。その隣にあるガラスの円筒は、底に白い物体が
私は礼を言うと、蒼万を後にする。
「明日から雨降りそうだなぁ。もうすぐ
彼がそう
明日から、雨か。今日は
少し不思議な感覚を
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