幕間 アキの視点
僕の名前は南部安芸、アキ・ナンブだ。
生まれは名前からして多分
裏の世界で取り引きされる孤児として。
ここでは省略するけど、当時の僕は何やかんやあった後、幼いながらも兵士の質を見出されて今のPMCにスカウトされた。
もちろん断る選択肢はない。
それで入社してからは訓練に訓練を重ねて、魔法も沢山練習して、気付けば立派な少年兵、いや、少女兵になっていた。
実戦でも大人達に混じって戦った。
銃をたくさん撃った、魔法でたくさん燃やした、ナイフでたくさん殺した。
たまには汚れ仕事もした。
けど当時の僕は毎日温かいご飯を食べて、ふかふかのベッドで寝ることが出来たから全く苦ではない。
そういう考えだったと思う。
ただ今思い返せば毎日は灰色で、面白味なんてものは全くと言っていいほどなかった。
いや、身近にはあったのだろうけれど触れる機会やきっかけがなかったという方が正しいだろうか。
まあそんな機械みたいな生活を送っていた僕だけど、12歳のある日、そこへ色彩を足してくれた人物と出会う。
それがカサギだった。
年上で同じ国出身で、腰に使い込まれた拳銃をつけていた彼。
放たれる雰囲気からして『こちら側』の人間だと直ぐに理解することが出来た。
だが彼は僕のように死んだ目をしておらず、無愛想な機械でもなかった。
まあどうせ関わることはないと思っていたが、しつこい程に何度も話しかけてきて、後ろを付いてきて、非番の時は無理矢理街に連れ出されて。
しばらく付き合って分かった。
彼は『こちら側』であると同時に『あちら側』の心の持ち主だったのだ。
僕は未知のそれに、人の暖かさに触れてどんどん心が溶かされていくのを自覚した。
彼に心を許し始めたあの時からようやく僕は人間としてのマトモな感情を手にいれることが出来たんだと思う。
そして気付けば彼は自分の中でも毎日の生活でも当たり前の存在となっていた。
朝起きればいい匂いがしてくるキッチンに、外へ出る時は自分のすぐ隣に、HK416を持った時はすぐ後ろに、コックピットに座った時は機体を挟んで。
いつもそこに、手が届く場所に居た。
彼の隣は非常に安心というか落ち着くというか、変に緊張しないで、警戒も全く無い状態で居ることが出来る。
もう彼無しではとても生きてはいけないだろう。
けれどこれまでもそうだったように、これからもその居場所は有り続けるだろうから問題は何も無いと思っていた。
…………だから1ヶ月前の今日、彼の言葉が信じられなかった。
は?
スローライフのため?
故郷へ帰る?
自分のもとを離れる?
僕を置いて?
彼が目の前から消える、そう考えただけで目の前が真っ暗になった。
更には戦闘時すら感じないような緊張感が心を締め上げて、吐き気まで込み上げてきて、みっともなくポロポロと涙を流して。
気付けば必死に彼を引き留めている自分が居た。
言葉による説得が無理だと分かれば躊躇わずに武力を行使した自分が。
何故離れる?
嫌いになったのか?
勝手に『あちら側』へ帰るつもりなのか?
僕を独り残して?
気絶した状態で縛られている彼を見下ろしていると、言いしれぬ怒りがムクムクと湧き上がってくるのが分かった。
同時にあることに気付く。
自身には今までの人生で培った戦うための力と技術があり、それを使えば人間1人を押さえ込んでおくことなど容易なことに。
ただ身内と呼べる存在に向かって使用することは若干憚られたが、その気持ちも彼が居なくなった時の絶望感に比べれば非常に微々たるものである。
それからは彼の押さえ込みに励んだ。
任務でしていたように監視カメラと盗聴器、発信機をセットして、組み立てたドローンで追跡させて、それによって得た会話内容と位置情報、金や通信などのやり取りをAIに常時読み込ませてもらうようプログラムしてもらって。
こちらはこちらで直接彼の元へ動き、何度も妨害をする。
拉致監禁という選択肢もあったが、まだ無しだ。
僕は彼とのこの生活をとても気に入っている為、それを自ら破壊するようなことはしたくない。
今は彼が考えを改めてくれることに賭けることにしよう。
まあどうしても無理なら……。
「捕まえて飼うしかないよね……ふふっ……絶対に逃がさない。」
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これの再投稿を忘れていました。最新話の更新はまだ未定です。作者のリアルでの忙しさがあるので。
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