315 スペシャルクエスト登場



「――えっ? スペシャルクエスト……ですか?」


 エミリアにも伝えると、デイジーを抱き締めたままポカンと呆けた。


「その様子だと、聞いたことはなさそうだな」

「えぇ……ありそうな名前ですけど、なかったと思います」


 やっぱりそうか。ショコラとカノンも、揃って首を傾げていたからな。エタラフをガッツリやってきた三人が、同じような反応をしているとなれば、間違いないと見ていいだろう。


「今朝から立て続けに特別フリークエストが出て、今度はスペシャルクエスト……これ絶対に何かあるよね?」

「まぁ、裏的なのは多少なりあるだろう」


 流石にここまで来れば、全てを偶然で片づけるのはちょいと無理がある。カノンが疑問に思うのは、実にごもっとも。訝しげにしているエミリアも、同じ気持ちと見て良さそうだ。

 しかしその一方で――


「ふぅーん、スペシャルクエスト……ねぇ」


 なんかショコラが意味深な様子で呟いていたのだった。


「どうかしたのか、ショコラ?」

「え? んーん、別になんでもないよー」


 いつもの笑顔のはずなのに、何故かここだけはうさん臭く思えてくる。ショコラのこういうときって、大抵何かをはぐらかしていたりするんだが、それを言いきれるだけの確証がないのも確かなんだよなぁ。

 ま、別に気にしなくてもいいか。特別それで困っているわけでもないし。


「――で、どうするよ?」


 それよりもいい加減、この出しっぱなしのウィンドウをどうにかしないとな。


「俺はこのスペシャルクエストとやらを、受けてもいいと思ってるんだが?」

「……お兄ちゃん、割と乗り気だね」

「折角出てきたんだから、受けない理由はないだろう」

「まぁねー」

「確かに拒否するのは勿体ないと思うよ」


 どこか後ろ髪を引かれるような感じのカノンに対し、ショコラは妙に乗り気だ。

 いや、この場合は何か違う気もするが――まぁ、いいか。


「エミリアはどうする?」

「いいですよ。どこまでもお付き合いします♪」

「うん! デイジーも受けるー!」

「……へっ?」


 思いっきり明るく宣言してきたドリアードの娘に、俺は間抜けな声を出す。

 いや、言っていること自体は分かるけど。


「デイジーも一緒に戦えるもん! だからデイジーもパパたちと行くー!」

「あー……」


 確かに戦えるか否かだけで言えばそうだろう。最後に覚醒した時の力が今も備わっていればの話にはなるが。

 ――そうだ。ちょっとウィンドウで確かめてみればいいんだ。


「えっと……あっ、デイジーがちゃんと俺たちのパーティに入ってる」

「マジ!?」


 カノンが驚いて飛びついてくる。そして俺にしがみ付き、ウィンドウを覗き見た。


「……ホントだ。確かにデイジーちゃんの名前が……ステータスも出てるよ」

「ちょ、ちょっと見せてくださ……あっ、ホントですね」


 慌てて割り込んできたエミリアも、ウィンドウを見た瞬間、それを認める。あくまでその結果に対してだけであり、デイジーの言ったこと自体に納得したわけではないだろうけどな。

 エミリアの微妙な表情が、それを証明しているようなものだ。そしてその視線は、俺の腰に抱き着いてきているデイジーに向けられる。


「デイジー。このクエストには何があるか分かりません。だからあなたは……」

「もう守られるだけのデイジーじゃないよ。だから一緒に行く」

「し、しかし……」


 なんともハッキリと物事を言うようになったもんだなぁ。俺たちからしてみれば、成長したデイジーを最後に見たのは一瞬も同然。改めてハキハキと言語化された状態で聞くと、子供の成長の凄さを感じるね。

 それはともかくとして、そろそろ俺から進言させてもらおうかな。


「まぁ、何だ。一緒に来てもいいんじゃないか?」

「パパっ♪」

「シ、シンさんっ!?」


 喜ぶ声と驚く声が同時に聞こえてきた。まぁここは予想どおりだから驚かない。むしろ思わず苦笑してしまったほどだ。


「初めてのお使いじゃあるまいし、そんな神経質にならんでも大丈夫だよ。それにどうせ離れたら離れたで、エミリアも絶対に心配しまくるだろ? だったら一緒にいたほうがいいさ」

「……分かりました。そこまで言われたら仕方ないですね」

「わーい♪」


 渋々ながら認めたママと、万歳しながら喜ぶ娘。なんともよくある母娘の光景と言えるかもしれないな。

 ていうか今更だけど、デイジーってNPCなんだよな? あまりにも自然過ぎて今の今まで気づいていなかったが、ここまで流暢に俺たちとやり取りできるって、かなり凄くないか?

 AI技術が進化しているという話自体は、幾度となく聞いたことはある。

 これもその成果なのか? ただのプログラムとはとても思えんし、デイジーという存在についても、まだまだ謎があるのかもしれないな。


「あ、そうだー♪ ねぇねぇ――」


 するとデイジーが、傍にいたショコラとカノンに視線を向ける。

 そして――


「おにーちゃんやおねーちゃんも、クエスト一緒に行くんでしょ?」

「「――はうぅっ!!」」


 デイジーの無邪気な一言に、二人は心臓を抑えながらうずくまるのだった。



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