005 マイペースとスキル
ファストタウンの大通りを歩いていると、他のプレイヤーの会話が聞こえてきた。
「ユニーク称号が出たんだって? なんとかマイペースとか……」
「【ブリリアント・マイペース】だろ? ユニークだから凄いんだろうけど、どんな効果があるんだろうな?」
「そりゃ、凄い効果だろうよ。プラスかマイナスかは知らんけど」
「……え? マイナスってあんの?」
「あるんじゃね? 地雷称号とかそーゆーの」
「いや、それはそれでヤベェし」
うーむ、やはり噂になっているようだな。少し耳を澄ませてみるだけでも、称号に対する印象が良くないことが分かる。こりゃあ確かに、下手にバラすのは避けたほうが良さそうだな。
彩音から話を聞いておいて、本当に良かったわ。
やはりゲームを円滑に進めるうえで、情報ってのは必要不可欠だな。今度から俺もちゃんと色々調べておかないと。
――つっても俺の場合、知ったところでどうにもならないことが多いんだよな。
恐らくエタラフに限った話じゃないんだろうが、ゲームの情報の大半が、イベントに関する内容なのだ。
ユニーク称号に関する情報を調べがてら、いくつかの攻略サイトをはしごしてみたのだが、やはりイベント攻略に沿った情報ばかりであった。効率良く稼げる武具の編成やら魔法の構成やらなにやら――あとはまぁ、特別クエストとか基本操作のやり方とかだな。
どのみち俺の欲しかった情報は、何一つ手に入らなかったわけだが。
するとその時――
≪ランダムクエスト『かぼちゃスープで笑顔に!』が発生しました!≫
効果音とともに、ウィンドウが浮かび上がった。
ただ街中を歩いていただけだったんだが――まぁ、ランダムというからには、どこでどう出るか分からない、ってことなのかもしれないな。
ひとまず今はそう思うことにして――
「受けます、っと」
俺は迷うことなく、そのクエストへの挑戦を決める。せめて発生したクエストは、できる限り受けたいと思っていたのだ。
イベントに参加できない以上、俺がゲームを楽しむ大事な要素だからな。
しかし――
≪ランダムクエスト『かぼちゃスープで笑顔に!』を開始します≫
どんな内容のクエストが出てくるのかは、文字通り完全にランダムなのが、ちょいとネックなところだな。
とりあえず今回のはいけそうだ。
規定の料理を作って納品すればクリア――むしろ俺向きとさえ言える。
料理は俺の得意分野だ。このゲームにおける料理の仕様がどんなのかは、ちょっとまだ分からないが、とりあえず受けてみれば分かるだろう。
――というわけで、俺は早速クエストの説明に従い、行動していった。
指定の場所で特別に素材をもらい、簡単なレクチャーを受けつつ料理を作る。
ただそれだけだ。これといって苦労はなかった。
まぁ、自分で言うのもなんだが――それも俺がリアルで料理ができるからこそ、という気はしている。何せこのゲーム内での料理という作業は、ちゃんと材料も自分で切って調理しなければいけないのだ。
レクチャーによれば、スキルレベルさえ上げれば工程も楽になるらしい。
最初から楽々できるわけがないってことか。ゲームとは言え、そこはリアルに作られているようだ。
≪クエストを達成しました!≫
おっ、どうやらクリアできたみたいだな。
しかもこれで『料理スキル』を会得することもできた。かぼちゃスープのレシピも覚えることができたし、これは割と幸先がいいと言えるかもしれん。
――このゲームはね? プレイヤーのリアルの能力も加味されるんだよ。
前に彩音が言っていたのは、こういうことだったのかもな。料理が得意なら、料理のスキルが覚えやすく、その逆もまた然りだろう。
まぁ、リアルを意識しているのならば、当然と言えば当然かもしれないけど。
「さてと……」
クエストは無事にクリアできたが、折角スキルを覚えたのだ。それを眠らせておくのは勿体ない。
どこでどうすれば自由に料理ができるのか――まずはそれを探りに行こう。
「なーんか面白くなってきた♪」
ワクワクする気持ちを抑えきれないまま、俺は裏路地を歩き出した。
◇ ◇ ◇
≪ランダムクエスト『芸術はバクハツにあり!』が発生しました≫
もう何度目になるだろうか。まだファストタウンから一歩も出ていないのに、俺はクエストをこなしまくるという状況に陥っていた。
ランダムというだけに、いつ出るか分からないクエストのはずだ。しかしそれにしては、少しばかり出過ぎな気もしてくる。だが一度拒否すれば、二度と出なくなるという可能性もあるからな。とにかく余計なことは考えず、このまま続けて片っ端から受けることにしよう。
幸い、俺がこなせないクエストに当たってはいないからな。むしろ俺の好きな部類のクエストばかり出ており、実にラッキーである。そのうち条件を満たしていないから受けられない――なーんてものもしれっと出てきそうだ。
――それにしても、これはこれで楽しいものだな。
クリアすればするほどスキルが増える。
そして習得したスキルを活用していくランダムクエストに当たれば、クエスト完了と同時にスキルのレベルが上がり、更に行える範囲が増えていくという嬉しい副産物付きだ。
当然ながら、クエストクリアの報酬金もしっかり頂戴している。
おかげで初心者にしてはお金持ちな感じだ。
そんなことを思いつつランダムクエストをクリアする。新たなスキルを会得して、爆弾を製造できるようになった。
その名も【爆弾製造】――うん、実に分かりやすいですな。
今しがた作り上げた爆弾アイテムを確認していると、またしてもウィンドウが目の前に現れる。
≪ランダムクエスト『ミステリアスな調合!』が発生しました!≫
調合――なんとまぁ面白そうなのがきたもんだ。
料理とはまた違う興味深さもある。ここはちょいと、気合いを入れてやってみようじゃないか!
≪ランダムクエスト『ミステリアスな調合!』を開始します!≫
幸いなことに、俺も今は絶賛夏休み中。多少の徹夜は問題ない。ていうか、俺自身のテンションも爆上がりしているもんだから、今日はもう落ち着いて眠れるような気が全くしない。
だから今日はもう、とことんゲームをやりまくることに決めていた。
故に俺は調合に全神経を集中させる。
どうせなら少しでも上手く――そんなことを考えながらこなしていたら、あっという間に数時間が過ぎていた。
途中でトイレ休憩がてら一時的にログアウトしたら、既に空が明るくなる時間帯となっており、軽く呆けてしまったのはここだけの話である。
そんなこんなで――
≪クエストを達成しました!≫
無事にクリアし、予想どおり【調合】スキルも手に入りました。
これを鍛えれば何かが起きる予感がする。自分で言うのもなんだけど、俺の勘は割と当たるのだ。
あくまで割とね。これはとても大事なことです。
まぁ、それはともかくとして――俺は個室の作業場を借りた。
共同作業場なら無料で使えるのだが、他人の目があるとどうにも落ち着かない。誰もいない場所で一人になり、コツコツじっくりと練習したかったのだ。
ついでに【服飾】や【爆弾製造】スキルも、鍛えるだけ鍛えてしまおう。
何故この二つが取得できたのかは、俺にも分かりません。とりあえず面白そうな気はしたので、余計なことは考えないようにしました。
そして更に数時間――なんかぼちぼち眠くなってきたかなー、と思い始めたその時であった。
≪スキル融合条件を満たしました≫
む? また何か新しいメッセージが出てきましたぞ?
≪次のスキルを融合させることができます。融合させますか?≫
なるほど――これで新しいスキルを生み出せるというわけか。面白い。早速試してみようじゃないか!
というわけで『融合させる』っと――
≪【調合】【装飾】【爆弾製造】スキルが融合――【錬金】スキルとなりました≫
錬金――賢者の石とか等価交換とかのアレですか。
こりゃまた興味深いものが出てきたもんだ、と思いながら俺は、ウィンドウを指先でタッチしていった。
すると――
≪ユニーク称号『マイペース・スキルゲッター』を取得しました≫
おっ、また称号がゲットできたぞ。
しかもユニーク――こんな簡単に手に入っていいものなのだろうか、いささか気になるところではあるが。
それにしても、ここに来てまた『マイペース』か。
俺はマイペースという言葉に、とことん恵まれているのかもしれないな。小さい頃から学校の先生とかにも言われてきたし。
まぁ、どのみち、ますます面白くなってきたことに変わりはない。
この調子でどんどん進めていきまっしょーっ♪
ちなみに――
「おい! またユニーク称号が出たぞ!」
「マイペース・スキルゲッター……もしかして『アレ』と関係あるのか?」
「ちょっとログアウトして、情報探してくる!」
「何でこうも立て続けにユニーク称号が出るんだ!」
「俺も一度でいいから拝んでみてぇなぁ、ちきしょーっ!」
こんな感じの騒ぎが、作業場の外という目と鼻の先で展開されていたことに、俺は全く気付いていなかったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます