004 ユニーク称号
ふーむ、どうやら『ユニーク称号』なるものが取れてしまったらしい。
これがランダムクエストの報酬ということなのだろうな。他に何かアイテムを手に入れた様子もないみたいだし。
「我がクランに入りたい者は、遠慮なく言ってくれー!」
「毒消しポーション持ってませんかー?」
「情報はいらんかーい? 今なら特別にお安くしときやすぜぇー?」
どうやら俺は、ファストタウンの元の場所に戻ってきたようだ。あちこちでプレイヤーらしき人たちの呼び込む声が飛び交っている。
それにしてもまた賑やかなもんだな。
俺もうるさいところは正直あまり好きじゃないが、これはこれで妙に悪くないような気がするから不思議なものだ。
まぁ、それはそれとして、ひとまず手に入れた称号とやらを確認してみるか。
人気の少ない広場の端っこへ移動し、俺は自分のステータスを開く。
≪ユニーク称号――ブリリアント・マイペース≫
日本語に直すと『華々しいマイペース』と言ったところか。最初のチュートリアルやさっきのランダムクエストでも、結構自由に歩き回った自負がある。まさに俺らしい称号と言えるような気もしてきたな。
さてさて、この称号は何か特別な効果でもあるんでしょうかねぇ――と。
≪この称号を所持している場合、ゲーム内のイベントには参加できなくなる。≫
――え、これだけ?
どう見ても他には何も書かれていない。こういうのって、普通は能力のアップやら何やらあるもんじゃないのか?
これはちょいと、マジで意味が分からんな。
確かに『ユニーク』とつくだけあって、これは予想外の効果だ。しかしこれは果たして喜べるものなんだろうか?
VRMMOは、いわばネトゲの類だ。
地雷スキルという言葉もなんとなく聞いたことはあるし、地雷称号なんて言葉が存在する可能性もあるだろう。
ふむ――ここは一つ、我が妹にでも相談してみるか。
俺はウィンドウを閉じて、そのままログアウトボタンを押した。
現実世界に戻ってきた俺はヘッドギアを外し、そのままスマホを手に取り、メッセージアプリを起動する。
宛先は我が妹。俺よりも早くにエタラフを始めている、いわば先輩だ。
もしかしたら何か知っているかもしれないと思った。俺はユニーク称号を得たので相談したいと打ち込み、送信する。
流石にすぐ返事が来るってことはないだろう。
今は絶賛夏休み中。アイツも夜までは、普通にゲームしてるんだろうからな。返事が来るとしても夜あたりか。
それまで俺も、少し自分で調べてみるとしましょうかね。
というわけでPCからブラウザを立ち上げ、例のユニーク称号について軽く検索をかけてみたんだけど――
うん、全く出てこないな。
少なくとも【ブリリアント・マイペース】なんていう言葉は、エタラフと全く結びついてこない。
もしかして俺以外に取得した人はいないってことか?
これ以上は調べても時間の無駄かもな。ここは素直に彩音からの連絡を――
――ピコピコピコンッ♪ ピコピコピコンッ♪
と、思っていた矢先にIP電話の着信が入った。
そこにはしっかり『彩音』と出ており、俺は待ってましたと思いながら、意気揚々と通話のボタンをタップした。
◇ ◇ ◇
『――まさかユニーク称号を取ったのがお兄ちゃんだったなんてね』
電話の向こうで、ため息をつく音が聞こえる。
『急にアナウンスが来たから、あたしもビックリしちゃったよ』
「アナウンス? そんなの出てたのか?」
『うん。あくまでそう言った称号が取得されましたーってだけなんだけどね。ちなみに誰が取得したとかは一切出てないから、そこは安心して』
「そうか。それは良かった」
もしプレイヤー名まで晒されたら、それこそ大変なことになりかねない。そこは運営さんたちも、理解していただいているようである。
『で、その【ブリリアント・マイペース】って称号……効果は本当なんだよね?』
「あぁ」
『流石に疑問だよ……イベントに参加できなくなるなんて、思いっきり地雷としか思えないもん』
「やっぱりそうなのか?」
『そうだよー。この手のゲームは、基本的にゲーム内のイベントが目玉だもん。それでどれだけ盛り上げられるかどうかが、カギとなってくるんだから』
「へぇ、そーゆーもんなのか」
『うん』
殆ど生返事に等しい答え方をした俺に対し、彩音は普通に頷いたらしい。心なしか声が生き生きとしている気がする。
そういえば昔から、自分の得意な知識を誰かに教えるのが好きだったっけか。
まぁ、実際俺もよく分かっていないから、彩音がそうしてくれるのは、かなり助かるとも言えるんだけどな。
『ネトゲを運営する側からしてみれば、ユーザーがそのゲームでより長く遊んでもらってこそナンボだからね。そのためにイベントで盛り上げて、それがネットで話題になったりすれば、自然と新しいユーザーを集める結果に繋がってくるし』
「なるほどねぇ……」
ひとまず理解したところで、俺は改めて思った。彩音の言うとおり、俺が手に入れた称号は、間違いなく『ゴミ』に値するものなのだろうと。
『イベントでどれだけ結果を残せるか――それはエタラフも同じだからね。募集しているクランも、イベント攻略が前提だし』
「そっか……ちなみにそのクランってのは?」
『簡単に言えばチーム要素だよ。イベントになると、そのクラン同士でランキングを争うのが基本って感じかな』
「だとしたら、俺がそのクランとやらに参加するってのも……」
『難しいと思ったほうがいいね』
「やっぱりか」
俺は思わずため息をつく。もう一つ気になることがあったので、それも聞いてみることにした。
「ちなみにそのクランってのは、イベントに参加しなくても作れるもんなのか?」
『作るだけならね。ただあたしが今まで見てきた限り、イベントに参加しないことを前提としたクランなんて、一つも見たことないよ』
「……だよなぁ」
ガックリと肩を落とす俺だったが、とりあえずの方向性も見えたような気はした。ここはひとまず、それだけでも良かったと思うべきだろう。
『それよりもだけど――』
彩音の声のトーンが、少しだけ変わった。
『お兄ちゃんはしばらくの間、ちょっと気をつけたほうがいいかもだよ』
「え、何で?」
『あたしもハッキリ確認したわけじゃないんだけど……そのユニーク称号を会得したプレイヤーの正体を突き止めよう、って動きが出てるんだよね』
「マジか……ていうか、どうしてそんなことに?」
『戦力の補強ができるかもしれないからだよ。アナウンスされるくらいの珍しい称号なら、きっとイベントでも大活躍してくれるだろう、って』
「えぇー?」
なんだよその短絡的にも程がある考えは? たかが珍しい称号ってだけで、そんな騒ぎになっちまうとはな。
『そのユニーク称号についての情報を、あたしからエタラフの掲示板に、少し流してみるのも考えたんだけど……』
「いや、それって意味ないどころか、逆効果になりそうじゃね?」
『……うん。あたしもすぐにそれ思ったから止めとく』
「それが賢明だな」
匿名での発表なんざ瞬時にガセネタだと思われるだろうし、かと言って名前を出せばソイツが問い詰められる。そこで上手く誤魔化せるならまだしも、彩音にそんな器用な真似ができるとも思えないからな。
やはりここは、下手に何もしないほうが得策だろう。
「とにかく俺も気をつけるよ。しばらくはソロでひっそりと行動するわ」
『それがいいね。てゆーかお兄ちゃん、そのままのアカウントで続けるの?』
「まぁな」
俺は思わず苦笑してしまう。
少し面倒だが、アカウントを作り直すという選択肢もあるのだろう。しかしそれをするつもりはなかった。
「イベントに参加できないだけで、エタラフを遊ぶこと自体はできるんだ。折角始めたことだし、もう少しこのまま続けてみるよ」
『そっか。お兄ちゃんのユニーク称号については、あたしも伏せておくからね』
「あぁ、それで頼む」
『それじゃあとりあえず、お兄ちゃんのID教えて』
「ID?」
『フレンドリストに登録するためだよ。そうすればゲーム内でも、何かあったときに連絡が取り合えるから』
「そうか。それは願ってもない。よろしく頼むわ」
『うんっ♪』
かくして俺と彩音は、それぞれのIDを教え合った。通話を終えた俺は、早速再びヘッドギアを装着。
改めてエタラフにログインする。
「さて、と……」
いつもの広場に戻ってきた俺は、メニューを開いてフレンドの項目を選択。教えてもらった妹のIDを、登録しようと思った。
やり方はとても簡単だ。IDを知っている場合は、それを直接入力すればフレンド登録が完了する。VRMMO初心者の俺でも分かりやすい仕様というのは、とてもありがたい話であった。
――なるほど。アイツのプレイヤーネームは『カノン』というのか。
恐らく本名の『立花彩音』をもじって、そのような形になったのだろう。
このゲームの世界のどこかで、アイツも楽しんでいる。いつか顔を合わせる日が、楽しみというものだ。
「さーて、とりあえず町を歩いてみるか」
ようやく本格的なVRMMOデビューを果たした気分に浸りつつ、俺は広場からの一歩を踏み出すのだった。
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