003 ランダムクエスト
気がついたら俺は、活気づいた広場に立っていた。
さっきチュートリアルで体験した場所とよく似てはいるのだが、明らかに人の数が違い過ぎる。そして近くを通った人の中で、頭の上にアイコンらしきものがピコンと反応しているときたもんだ。
俺と同じプレイヤーであることはすぐに分かった。
よく見るとアイコンがない人もいる。恐らくそれはNPC――ノンプレイヤーキャラクターなのだろう。
VRMMO初心者の俺でも、それぐらいのことは分かる。
――さて、とりあえずこれからどうするかな?
周囲を見渡しながら、歩き出そうとしたその時――頭の中で音が鳴った。
同時に浮かび上がるウィンドウ。何かのお知らせかと思いきや、なんとクエストが発生したらしい。
が――
「ランダム……クエスト?」
その文言を、俺は思わず口に出して読んでしまった。
クエストがいきなり出たことにも驚いたが、『ランダム』という言葉がどうにも引っかかる。
他のクエストとは違うということなのか――まぁ、とりあえず受けてみるか。
クエストを受けるかどうかの選択肢で、俺は『受ける』を選択した。
≪ランダムクエスト『時に流されぬ者』を受けました≫
そんなウィンドウが出現すると同時に、俺の周りの景色が白くなる。そして気がついたら俺は、見知らぬ森の中に一人で立っていた。
――これは一体どういうことだ?
さっきまで俺は、町の中心広場にいたはずだ。それがいきなりこんな静かで人っ子一人いない森の中にいるだなんて、ちょいと意味が分からんですよ。
とりあえずその場で様子を見るべく立っていたのだが――何も起こらない。
クエストを受けてこうなったのだから、もうクエストは始まっているということになるのか――だとしたらここでボーッとしているのは、あまりにも無駄な時間を消費していることに他ならない。
――そうだ。クエストの内容を確認してみよう。
ウィンドウを開きながら、俺は内心でドキドキしていた。
まだチュートリアルを終えたばかりの俺は、右も左も分からない状態だ。そんな中でもし、魔物を仕留める的なのがミッションだとしたら、今の俺が攻略するのはまず不可能だろう。
できるだけ簡単な内容でありますように――そう願いながら、俺は勇気を出してクエストの内容を見てみた。
すると――
「……なんだこりゃ?」
思わず声に出してしまった。それくらい意味不明なことが書かれていた。
≪目的地に向かうだけが人生ではない。たまには風の向くまま、己の思うがままに回り道をするのも、生きていく上ではとても大切なこと。見える方向は決して前だけではなく、後ろや左右にもちゃんとあることを、どうか知ってほしい≫
いや、その――知ってほしいとか言われてもなぁ。
文章の下に制限時間こそ書いてあるが、何をどうすれば達成できるかが分かりやすく書かれていない。
○○を討伐やら、○○を何個以上採取せよとか――クエストってのは普通、そういうもんが記されているんじゃないのか?
とにかく、俺の思うがままに森の中を進めばいいってことか。いや、何も進むだけが正解とは限らないよな。戻る――この場合は立ち止まったり休んだりするのも含まれている可能性も、十分にあり得るだろう。
――よし、まずはこの森をあちこち歩いてみるか!
思い立った俺は早速行動を開始した。
俺の足音が聞こえるだけで、何かが飛び出してくるような気配はない。
ゲームの世界なのだから気配も何もない――それは恐らく大きな間違いだ。視覚や聴覚は勿論のこと、嗅覚も現実と変わらないくらいに感じられる。
流石はVRMMOということか。
ここにいるのは俺一人だけ。モンスター的なのが出てくる様子もないし、特に急ぐ理由もない。
だからこそのんびりと――そういや一つ、気になることがあるな。
もし、トイレに行きたくなったらどうなるんだろ?
ここはあくまで仮想空間。尿意や便意についてどうなるのか、それもちゃんと感知してほしい――と、思っていた矢先に、なんか反応が出てきましたよ。
俺の名前のところが赤くピコンピコンと光っております。
これはチェックしろということでしょうね。流石にそれは分かります。
――おぉ、まさに俺が気になっていたことが明かされたぞ!
ユーザーの尿意を感知しました、という警告文がウィンドウに出ている。そこも抜かりはないということか。
いやはやおみそれしました――と、感激している場合ではないな。
クエスト中の今、いきなりログアウトしたら、全てがなかったことになるのではという不安が過ぎってくる。とりあえずヘルプ的なのは――あぁ、これだな。
ちゃんとログアウトの下にヘルプがありました。
これがデスゲームだと『ログアウトボタンがないー!』みたいな感じで騒ぎ出す頃合いなのだろう。まぁ、そんなのが現実に起こるなんて、普通はあり得ないことぐらい分かっているよ、ちゃんとね。
と、そんなことを考えながら俺は、取り急ぎヘルプをチェックしていく。
そしてそれはすぐに見つかりましたとさ。
結論から言えば可能であった。ゲーム内の状況や制限時間はしっかりと経過しているのでご注意くださいと――まぁ、それは当然のことだろう。
――となれば、早速一時的にログアウトだな。
これ以上余計なことを考えて手遅れになるのだけは避けたい。俺は早速ログアウトボタンを押して現実世界に戻った。
そして急いでトイレに駆け込み、無事にスッキリした状態となったのだった。
俺は部屋に戻り、再びヘッドギアを装着し、再ログインをする。場所は全く変わっておらず、制限時間だけが刻一刻と減っている状態だった。
途中ログアウトのことを知れたのは、普通に良かったと言えるだろう。
しかし可能なのは、あくまで移動中に限る場合、か。つまりモンスターとのバトル中にそれを行うことはできないと。
まぁ、それも当然だよな。バトル中にそれができたら戦闘不能を間接的に避けられることになるんだし。
とりあえず、今度からゲームする時は、トイレのことも考えておかねば。
それを胸に刻み込みつつ、俺は森の中を進んでいく。
――うーむ、それにしても静かだ。本当に何も起こらない。
その後は至って平穏だった。途中で見つけた泉や川を見つめたり、ふかふかの芝生に寝転がって木々から見える青空をボーッと眺めたり――そんな感じでのんびりと過ごしていたら、クエスト終了時間となった。
≪クエスト達成しました!≫
そんなアナウンスのウィンドウが出現する。どうやらクリアしたようである。全くもって何もしていなかったけど、本当にこれで良かったのか。
まぁ、細かいことは気にしないでおこう。
クエストをクリアしたということは、報酬的なものがもらえる筈だよな。
どんなのがもらえるのか――そんなワクワクを募らせていると、新たなメッセージウィンドウが出現した。
≪ユニーク称号『ブリリアント・マイペース』を取得しました≫
――ん? ユニーク称号とな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます