第33話 関川、屋上
あの後、紗枝と葉月が迫ろうとしてきたが、病室で騒ぐなと、教官に追い出された。
知美は葉月と話したいことがあると言って、一人で残った。
教官も手短にしろと釘を刺しはしたが、知美を止めることはしなかった。
「それで、関川さんの能力ってどういうことなんですか!?」
病室のすぐ外で紗枝が小声で問い詰めてくる。器用な奴だ。
「…説明も何も教官の言ったとおりだ。一昨日の夜から私と知美の頭の中はつながっている。考えていることは全部筒抜けだ」
「なんですか!その素敵シチュエーションは!ていうか、今ともさんのこと知美って呼びました!?」
いらんことを言ってしまった。この状況を素敵だとか、紗枝の奴は頭が沸いているのか。
「声が大きいぞ」
「あ、すみません」
少しの間だけ紗枝がしゅんとするが、すぐにずいっと顔を近づけてくる。
「頭がつながっててあの距離感ってことは、一昨日の夜からずーーーーっとお話してたってことですよね!どんなこと話してたんですか!?」
大人しくておどおどした奴だと思っていたが、とんだ詐欺だ。とんでもない圧力で問いただしてくる。
「はいはい、紗枝ちゃん。少し落ち着きましょうね」
「あ、はい…。すみません」
隊長に窘められて、紗枝がまたしてもしゅんとする。
隊長からの言葉が効いたのか、紗枝の奴がようやく黙ってくれた。
「けど、美里ちゃん。……大丈夫なの?」
隊長の言葉に紗枝の奴がびくっと反応して、とんでもない速さで隊長に視線を向ける。
「い、いま関川さんのこと……」
「いや、いいから」
紗枝の奴、こういうことには感度が高いな。
「それで、大丈夫ってどういうことだ?」
隊長の言葉を問い返す。
「えっと、頭の中がつながってるってことは、自分の知られたくないことまで知られちゃうってことでしょ。…大丈夫なの?」
「あ、そっか」
隊長の言葉に紗枝の奴が今気づいたという呆けた声を出す。
「確かに、そうですね。思ったことがそのまま伝わるっていうのは、すれ違いが無くて素晴らしいことだと思いましたが、隠し事ができないっていうのも大変かもですね…」
紗枝が隊長の言葉を嚙みしめるように呟く。
「実際大変だ。知美が四六時中話しかけてくるし、距離を取って逃げることもできない。あいつの感情にこっちまで影響されるしで最悪だ」
この返答を受けて紗枝の奴がばつの悪そうな顔をする。
「あの、ごめんなさい。私、そんな大変だなんて思いもしなくて……。ただ、私がなかなか思ってることを伝えられないから、それって素敵だなって…」
なるほど。自分の言いたいことを言えない奴にとってはそういう考え方もあるのか。
「いや、気にしてない。まあ、なんだ。私と知美を見て元気になったなら良かったよ」
「あ、はい。それはもう。毎日の楽しみが増えました!ありがとうございます!」
紗枝は思っていたよりやばい奴なのかもしれない。
葉月のことを引きずってないか少し心配した私の気遣いを返してほしい。
「…ずっとつながってるってことは、能力を解除することはできないのよね」
「ああ、そうだ」
隊長の言葉に肯定する。
「そう。それは……大変ね」
隊長はこちらを気遣うように言葉を探していたようだが、見つからなかったらしい。大変でまとめてしまう。
「ああ、大変だ」
「その、ごめんなさいね。…力になれなくて」
申し訳なさそうに言う隊長に、こちらまで申し訳ない気分になってくる。
「…いや、気にすんな」
気の利いた言葉が浮かばなくて、結局こう返すことしかできない。
「そのことで話がある。関川、屋上いくぞ」
突然、教官が話に割って入ってきて、人差し指で上を指す。
「なんだ、リンチでもすんのか」
「それだったらもっと目立たないところを選ぶ」
教導官にしといていいのか。こいつ。
「そういうわけだ。またな」
「え、ええ。また」
「あの、その……ご武運を!」
教官に連れられる私を、隊長と紗枝は気の毒そうに見送る。
……本当に大丈夫か?
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