第2話 異常なシスコン癖あり。

目の前の美しい女性は口を開いた。


「はい。あなたは死にました」


と。


「あのー、えっと……」


死んだと言われても実感がない。

確かに日本刀で切られたが、今は痛みもないし傷もない。

そして、ここが異世界だと言う。

異世界には興味があった。

大好きなラノベの展開と同じだから、ある意味、蒼いが希望した通りだ。

ということは、この綺麗な女性は異世界への水先案内人ということになる。


「あの、あなたの名前は?」

「私の名前はアティナです。この世界の女神です」


(女神……)


いきなりすごいのが出て来たな。


蒼の驚きをよそに、女神は手に持ったタブレットの様なものに指を這わせる。


「先程、お読みしたプロフィールで間違えている点があれば仰ってください」

「えっと……」


蒼は言おうかどうか迷ったが、正直に言うことにした。

自分のプロフィールが間違って伝わったことで、転生先が変な場所になったり、モブキャラになったりしたら困る。


「『若干のシスコン癖あり』のところなんですけど……」

「はい」

「僕は妹のことが大好きです」

「それは、若干どころではないと……?」

「はぁ、まぁ……」


照れくさくなり、頭を掻く蒼。


「では、訂正しておきますね。『異常なシスコン癖あり』、と……」

「え、異常って」

「何か?」

「あ、いえ……」


ある意味、正しいので訂正の訂正を控えた蒼。


「他にはありますか?」

「いえ、概ね合っています。あ、こちらから質問いいですか?」

「どうぞ」

「ここはどこなんでしょうか? それに僕が死んだっていうのはどういうことなのか、あと元の世界に戻ることは出来るのかな……とか色々聞きたいことがあるのですが……」


蒼の関心事は、妹の美麗に再会できるかどうかだった。

何らかの方法で妹に再会できるなら、この異世界でも頑張れる。


「順番にお答えします。まず、ここはあなたが住んでいた世界とは別の次元に存在する世界、『フィオナ』です。そして、あなたはそれまで住んでいた世界で死を遂げました。その魂は死後の世界へ行くはずがこのフィオナに転送されました」

「つまり、間違えたみたいな感じですか?」

「厳密に言うと異なります。あなたの強い願いが死後の世界を拒み、このフィオナへ転送されて来たのです」


(強い願い、か……)


「私は、あなたの強い願いが何なのか知りません。教えてください。願いがどれくらい強いかで、元の世界に戻れるかどうかが決まります」


(え? マジか)


「お兄ちゃん。だーいすき!」


美麗の言葉を思い出す蒼。

ツインテールを揺らしながら走って来る。

大きな瞳にマシュマロみたいなほっぺ。

満面の笑顔で抱き着き、蒼のほっぺたにキスする。

それはいつも、美麗が蒼におもちゃをねだる時のルーチンだ。

蒼はそれが分かっていても、つい、美麗のために貯めた金を吐き出す。


「ぼ、僕は、美麗の金庫になりたいんです!」

「はぁ?」


アティナは首を傾げた。

意味が分からない様だ。


「えっと……」

「続けて下さい」


タブレットに指を這わせるアティナ。

今の言葉も記録されている様だ。

もっと思いを伝えたほうがいいと判断する蒼。


「僕は美麗に幸せになって欲しい。その為ならどんな苦労も厭わない。美麗が望むなら、僕は妹専用の金庫になる!」


女神はタブレットを眺めながら、黙り込んだ。


「あの……」

「えっ、あっ、すいません」

「それで、どうなったんでしょうか?」

「あ、はい。あなたの願いは、フィオナの神に受理されました」

「じゃ、じゃあ!」


目の前が明るくなる蒼。


「はい。あなたの妹さんの元へ帰しましょう」

「やったー! ありがとうございます」


嬉しさのあまり、その場で飛び跳ねる蒼。


「喜ぶのはまだ早いですよ」

「え?」

「ただし、条件があります」

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