第197話 現在・過去・未来

「さっきも言いましたが、僕はただの太郎でいいんです。そこに何もつかなくていい、ひーろーでなくていい、大事な人たちと毎日を大事に生きていく、そんな太郎がいいんです」 


 太郎はキッパリとそう言って続けます。


「過去の僕は確かに失敗をしたかも知れません。でも、これからは梅さんや、あまてらすの師匠やいろはちゃんたち、それにやらし屋さんたちだっていてくれます。もちろん、大事なおじいさんやおばあさんも。だから、もう、あんな失敗はしないんだろうと思ってますが、違うでしょうか?」

「いや、違ってはおらんな」


 神様も明るい声で答えてくれます。


「大事なのはな、今じゃ。あるのは今だけなんじゃ」

「今だけ?」

「そうじゃ」


 神様はうむうむ、とうなずきながら続けます。


「今は確かにある。今、そこにおまえがいるのがその証拠。だが過去は? 確かに過去はある、記憶に残る、思い出にも残る。だがそれはどこにある? 確かにあったが今はない。夢のようなものじゃ。そして未来はどこにある? 向かう先に確かに見えるが、見えているだけ、確かにあるかのかは分からん。今を積み重ねて人は、いや、人だけではない、全てのものが生きておる。だからあるのは今だけなんじゃ」

「はい」

 

 太郎は初めてこの神様が言うことに納得したと思いました。

 だけど、それならそれで一つだけ聞いておきたいこともある。


「おっしゃる通りだと思います」

「そうじゃろう」

「でも、だったら転生はなんのために勧めたんですか?」

「うぐっ!」


 神様の口からそんな音が出ました。


「いや、まあ、それは、あの~」


 神様は一生懸命何かを考えている。


「それは、ほれ、あれじゃ!」


 神様は何かを思いついた。


「それは、おまえを試したんじゃよ、お前が真にひーろーたるかのテストじゃ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る