第196話 僕は太郎

「いいぞいいぞ!」

「太郎さんかっこいい!」

「俺たちの太郎!」

「太郎さんはひーろーよ!」

「よっ、日本一にっぽんいち!」


 周囲からそんな声が天まで届けと言わんばかりにわあっと湧き上がり、渦を巻くように、広がりました。


「神様、でいいんですよね?」


 太郎は梅さんの手をしっかりと握ったまま、神様に言いました。


「ああ、わしは神様じゃよ」

「じゃあ神様、見ての通りです。もしかしたら、本当なら僕は転生というのをして、あなたが思っているような、ひーろー協会というところが求めているような、そんなひーろーにならないといけないのかも知れない。でも、僕にはできません。あなたから見てみすの結果かも知れないけど、それでも僕にはたった一つの僕の人生です」


 そう言って、太郎は梅さんの手をそっと放すと、神様の真正面にまっすぐ立ち、ゆっくりと頭を下げました。


「ごめんなさい、あなたの期待を裏切るような生き方しかできず、ひーろーに、桃太郎になれなくて申し訳なくは思っています」


 神様は長い白い眉と口元を覆う白い髭のせいで表情は分かりませんが、それでもやさしく太郎を見ているように思えました。


「でも、さっきも言ったようにこれが僕、太郎の生き方なんです。他の生き方はできません」

「そうか」


 神様は白い長い髭をさすりながら何かを考えていたようですが、


「本当にそれで後悔はないんじゃな?」

「ないです」

「転生したら、誰からも何も言われることのない、真のひーろーになれるとしてもか?」

「はい」

「それでいいのなら、わし、これで帰っちゃうよ?」

「構いません」

「本当に本当にこのまま帰るけどいいんじゃな?」

「はい、本当の本当に構いません」

 

 神様が何回聞いても太郎ははっきりと答えます。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る