第195話 太郎の決断

 衆人環視の中、太郎は黙ったまま立ち続けています。


「すぐに答えは出せんか? まあ、それも無理はない」


 そりゃ、そんな重要なことを、


「粒あんとこしあん、どっちのおまんじゅうがいい?」


 みたいに決められるはずもない。


「もしも」


 やっと太郎が口を開きました。


「僕が転生して、今までの話がここで終わったら、ここはどうなるんですか?」

「ここ?」

「僕が、生まれて、引きこもって、鬼の祭りに参加して、お団子売って、梅さんと祝言を挙げようとしている、そのここは、一体どうなるんです?」

「どうなるもこうなるも、終わりじゃ」


 神様はあっさりと言います。


「ここは終わって、言ってみればおまえは新しい世界に引っ越すようなもんじゃ。ここは今日で終わり、それだけのことだ」

「だったら僕は転生しません」

 

 太郎は静かに、ですがはっきりと、しっかりとそう答えました。


「じゃがなあ、そうしないとひーろー協会はおまえをひーろーとは認めないと言うておる。そうしたらひーろーの話が一つ減ってしまうじゃろう? おまえは桃太郎なんじゃ、桃太郎のお話を大事にしてもらわんと困る。」

「僕は、それはひーろーと言う人たちから見たら中途半端で、情けなくて、つまらない人間かも知れない。だけど、それでも、それが僕という人間が歩いてきた道なんです。それを恥じるつもりはありません」


 太郎の答えには淀みがありません。

 

「僕はひーろーなんかじゃなくていい、桃太郎じゃなくていい、僕は太郎、太郎でいいんです。ただの太郎でいい、今の人生をこのまままっすぐ歩いていきます」


 太郎はそう言って隣に立つ梅さんの手を取り、


「こんな僕でも梅さん、ずっと一緒に歩いてくれますか?」


 梅さんの目をじっと見てそう尋ねました。


「もちろんです」

 

 梅さんもまっすぐそう答えました。

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