第176話 これからのこと

 そうして、家に戻った太郎たちですが、太郎と梅さんのことについては、


「とりあえず、もう少しお付き合いをしてからということに」


 と、なりました。


 というのもですね、何しろ太郎、長年のブランクがあります。5年ばかり、人生感覚の半分ぐらいを部屋の壁や天井を見て過ごしましたから、いきなり結婚してってのも色々と不安です。鬼ヶ島事件で一気に心配がぶっとんだ気はしますが、そういう派手派手しい「晴れの日」的なことではなく、日常的な「の日」的な生活を地道にやってみての方が安心だろう、ということに、何よりも本人の太郎が納得の上です。


 それから、梅さんの「うずめ様」についても相談が必要でした。


「あたしは、やっぱりうずめ様は続けたいんです」 

「でもさ、もううちの一座で一緒にずっとってのもむずかしいだろ?」


 と、師匠に言われ、うずめ様も一度は芸の世界から足を洗おうかと思いかけたのですが、


「僕は梅さんはうずめ様もやっててほしいなあ」


 と、太郎が言い出しました。


「こんな言い方をしたら芸の道一筋の方には失礼かも知れないけど、そういう人もいていいと思いませんか?」

「そういう人?」

「はい、プロではなく、一般人でありながら芸を磨く人たちです」

「それは一体どういう?」

「鬼の祭り、来年からの戯画市場に本を出される方、普段は他の仕事をしてらして、一年に一度本の売り手で作家になられる方がいらっしゃいますよね」

「ああ、なるほど」

「師匠が許してくださって、そして梅さんもそれでいいと納得してくれたら、一座に付いて行く時もあり、ここにいる時もある、そういう生活もいいんじゃないかなと思います。時代は変わります、色んな人が色んな生活をする時代がきっと来ます」


 太郎の力説に、やってみようかとなりました。

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