第162話 後夜祭
そうしている間に空はどんどん暗くなり、後夜祭の始まりです。
「さあみんな、火の回りに集まれ」
主催者の声でみんなが火の回りに集まります。
「そおれ、放り込め!」
その声を合図に、もういらなくなった燃える物をどんどんと火に放り込んでいきます。
火が、命を持ったように高く燃え上がり、ゆらゆら揺れます。
揺れる火の中、人に戻った鬼たちが、顔を赤く照らされて祭りの名残を見つめています。
充実したさびしさ。
満足感と空虚感。
また来年と誓う顔。
同じ炎を見つめる仲間たちの顔を、炎が揺らすたびに色々な思いを浮かび上がらせます。
「こんばんは」
ごく普通の着物に着替えた太郎に、ごく普通の着物の女性が話しかけてきます。
「えっと、うずめ様?」
「はい」
化粧と衣装を脱いだうずめ様は、ごくごく普通の女性でした。
「あの、そんなに見ないでください、恥ずかしい」
「あ、すみません」
あのキラキラしさはありませんが、落ち着くような風情の女性でした。
太郎はまた、違うドキドキを感じていました。
「普通だと思っていらっしゃるでしょう?」
「え?」
「あの化粧と衣装がなければ、そのへんにいる村娘と変わらないって」
「はい」
太郎の即答に、ちょっとだけうずめ様は傷ついたような顔になりましたが、
「でも、その普通がまた素敵です」
「あ、ありがとうございます」
太郎の素直な感想に、うずめ様はうれしそうに笑いました。
本当に素敵な人でした。
あのキラキラがなくても、そばにいるとホッとするような、そんな感じがまたいいなと思いながら、
(でも、そうしてホッとする人はあのあまてらす様なんだなあ)
そう考えて、太郎は胸が苦しくなるようでした。
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