第158話 がーでぃあん

「とりあえず、やってみませんか? その結果、また悪いことする人が出てきたら、今度は容赦しないってことで」


 太郎の言葉にやらし屋関係と悪徳役人以外の人がわっと笑った。


「そうだな、確かにやってみないと分からないよな」

「そうよね」

「あたし、いっぱい本が出せるならすごくうれしい!」

「おう、なんか生きる希望が湧いてきたぜ!」

「おおげさな奴だなあ」

「いや、本気本気」

 

 みんながわっと笑い声をあげ、広場はわいわいと楽しい雰囲気で盛り上がる。


「どうですか、やらし屋さん?」

「…………」

 

 やらし屋が黙ったまま少しうつむき、ずずっと鼻をすすった。


「ありがとうございます、やらせていただきます」


 その両目には涙が浮かんでいた。

 それを見て悪徳役人の目玉が飛び出て驚く。


「お役人様もそれでよろしいでしょうかねぇえ?」

「あ、いや、それは」


 元々悪徳役人は鬼の祭りにもその本にも全く興味がない。あったのはやらし屋からの袖の下と、それをもらって、なんだか分からないがみょうちきりんな格好でやつらに自分の権威を見せつけられる、自己顕示の場を持てる期待だけだった。


「いかが?」

「あ、あの……」


 悪徳役人はあまてらす様にしなっと首を傾げられ、またしゅっぽー! と、頭から湯気を上げるが、


「もしも、嫌、とおっしゃるなら、今回のこと、印籠のお方に報告させていただいても、ねぇえ?」

「いやいやいやいや! おっしゃる通りにいたします!」


 と、一気に血が下がって真っ青になる。


「それじゃ、お役人様もこの祭りの庇護者ひごしゃ、そういうことでようございますね?」

「……仕方ない」

 

 悪徳役人が小さな声でそうつぶやくと、


「ええっ、よおく聞こえませんでした。今、なんと?」

「いや、喜んで! 喜んで祭りをお守りいたします!」


 と、宣言せざるを得なくなった。

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