第146話 赤、青、黄

「ねぇえ、お役人さま」


 あまてらす様は、やはり同じようにぼおっとなっている悪徳役人に、しゃなりしゃなりと優雅に近づきました。


「お、おう、なんだ」

「ちょいと、これを見ていただきたいんですけどねぇえ」


 もうあまてらす様にすっかり釘付け、鼻の下伸びっぱなしの悪徳役人は、あまてらす様の差し出す書付けを夢見心地で受け取ると、格好をつけてさささっ、ばしっ、と勢いをつけて広げたものの、その文面をさらさらっと読み下すと、すすっと血の気が引きました。


「これは……」

「ええ、この地の、この鬼ヶ島を含む一帯を統括とうかつなさってるお奉行と、あたくし、ちょお~っとばかり懇意にしておりましてねぇえ」


 あまてらす様がほほほほほ、と笑いながら青くなっている悪徳役人にちらりと流し目をくれると、悪徳役人め、厚かましくも青い顔の目の部分だけ赤くして、黄色く鼻を垂らさんばかりに伸ばしており、まるで一人信号機のようになってしまっています。


「それとね、お奉行からのそのまたツテをたどった先からいただきましてねぇえ、こういう物もございますの」


 と、もう一つ、今度はふところから袱紗ふくさに包んだ何かを色っぽく取り出して包みを開き、


「ささ、どうぞ、どうぞぉ」


 と、自分の両の手と手で挟んだ悪徳役人の手に、


「ぎゅっ」


 と、力を入れて握らせたのでもうたまらない、悪徳役人は顔全体を真っ赤にして、頭からふしゅ~っと湯気を吐き、それでも目だけは握らされた物を確認し、目の玉がぼーん! と、飛び出して固まってしまった。


「あい、そういうことで、よおくお分かりかえ?」

「は、は、は、はひ……」


 もう悪徳役人の何が何してどうなっているのか、見ているこっちからはさっぱり分からない状態です。


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