第145話 させません!

「武器をはなせ!」

 

 下っ端役人たちはそう声をかけながら太郎を取り巻きますが、元から太郎は素手です。


「えっと、何を放すの?」


 太郎にそう聞かれて下っ端役人たちは困って顔を見合わせます。


「えっと……」

「放してもらうものは、ない、かな?」

「そんじゃ、大人しくせえ!」


 そう言いますが、


「えっと、これ以上どうすれば?」


 元から太郎はじっと立っているだけです。


「えっと……」

「それ以上やってもらうことは、ない、かな」

「そんじゃ、えっと」


 元から命令に従うことに慣れている下っ端役人たちは、やることがなくてすっかり困ってしまいました。


「な、なにをしとる! とっととひっつかまえんか!」


 と、上役の悪徳役人は言いますが、はっきり言って素手でこんだけの見るからにこっちこそ悪いやつらをぶっ飛ばした太郎に近づきたくはありません。


「えっと、何の罪で?」

「傷害罪だろうが!」

「あ、はい!」


 言われてやっと、なんとかへっぴり腰で太郎に近づこうしましたが、


「させません!」


 いつの間にか近くまで来ていたうずめ様が、両手を広げて太郎の前に立ちはだかり、お役人たちにそう言い放ちました。


「あなた方も見ていたでしょう、最初に暴力を振るったのは誰か!」


 美しく着飾ったうずめ様が、まるで何かのお芝居の見せ場のように、キラキラと太郎をかばってすっくと立つ姿に、下っ端のしょうもない役人たちは、すっかり気圧けおされてしまいました。


「そうですよ、みんなちゃーんと見ていましたよ。そうですよね?」


 そう言ったのはあまてらす様。

 うずめ様よりさらにキラキラの綺羅綺羅しい方が、そう言っていつものように扇で口元を美しく隠し、斜めに品を作ったさまに、中には手に持った「刺股さすまた」をぱったりと取り落とし、ぼおっとみとれる下っ端役人まで出る始末です。

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