第140話 昨日と変わる今の様よ

 一度はっきりと自覚してしまうともうだめでした。


 太郎はうずめ様が好きだけど、うずめ様が好きなのはあまてらす様。男性だけどあれほど美しくてキラキラ輝く人に勝てるはずがない。

 

 そう思ってなんだか泣きそうになってきました。

 太郎、生まれて初めての敗北感でした。


「あ、船が見えてきましたよ」


 うずめ様は太郎の気持ちには何も気がついていなくて、昨日と同じように、楽しそうに鬼たちを乗せた船がどんどんと大きくなるの見ています。


 昨日と同じ繰り返しなのに、どうして今はこんなに悲しいんだろう。

 

 そう考えると同時に、今日、このお祭りが終わってしまったら、もう二度とうずめ様とは会えないかも知れない、そうも考えると太郎はどうしていいのか分からなくなってしまいました。


「太郎さん太郎さん、ほら、いろはちゃんたち、今日もがんばってますよ、あそこ!」


 うずめ様がニッコリと笑って太郎を見てそう言ってくれました。


「あ、そうですね」


 太郎は急いでうずめ様から目をそらし、洗濯3人娘たちがいる方向に視線を向けました。


「うずめさまあ~!」

「太郎さあ~ん!」

「がんばりまあ~す!」


 3人は犬、猿、雉の扮装のまま、屈伸をしたり、足首を回したりしています。


「本当にいつも元気で、見ていてうれしくなりますね」

「本当ですね」


 太郎は何もなかったようにうずめ様に相槌あいづちを打ちながら、どうすればいいのかを考えていました。


 このまま何もなかったまま、黙ってさようならをしたくないという気持ち。

 だけど、他に好きな人がいるうずめ様に自分の気持ちを伝えるのは、迷惑をかけるだけだという気持ち。


 一体どうすればいいのか。

 2つの気持ちの間で太郎は揺れ動いています。


「船がどんどん大きくなってきましたよ。あ、一番船が入ったあ!」


 ほがらかにそう言ううずめ様を見ながら、太郎は考え続けていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る