第137話 うろうろ太郎

「あの、すみません、ありがとうございます、あのじゃあ」


 太郎はなんだかそういう意味のない挨拶をして、


「あの、じゃあまた。宿に帰ります」


 と、なんだか妙な感じでその場をそそくさと離れました。


「あ、いろはちゃんたちはあまり遅くならないように気をつけて、もうちょっと遊んでおいで」


 そう声をかけるだけかけて、急いで部屋へと戻ります。


 なぜでしょう、胸がドキドキチクチクします。


(そうか、うずめ様はあまてらす様のことが好きで、それで今はずっと一緒にいるから、だから幸せで……)


 そんなことを考えてしまう自分に太郎はうろたえてしまいました。

 

 どうしてそんなことを考えてしまうんだろう。 


「疲れてるんだ、寝てしまおう」 


 太郎はそう考えて、早くに布団に入ってしまいましたが、眠ることができません。

 あっちに寝返り、こっちに寝返り、何度も何度もため息をつきながらごろごろしていましたが、なんとか知らないうちに寝てしまっていたようです。


 そして目が覚めると、もうすっかりと朝のようです。

 何しろ早くに横になってしまったので、時間的には十分寝ているはずなんですが、なんだか疲れが取れません。


「おはよう、ございます?」

「太郎さん大丈夫ですか?」

「うん、なんだか体調悪そう?」


 いろは3人娘が驚いてそう言います。


 だって、家にいる頃はずっと太郎は引きこもってはいましたが、体調不良なんてなったことがないのです。おじいさんやおばあさん、村の人たちもみんな口々にそう言ってました。


『太郎は病気だけはしたことがない』

『太郎さんはあれだけ元気だったのに』


 って。


「え?」


 言われて太郎も驚きます。


「鏡、見てみたらどうですか?」


 太郎の時代、まだまだ鏡は貴重な品ですが、お坊ちゃんの太郎の荷物にはもちろんきちんと入っています。


「本当だ、すごい顔してる……」


 太郎もあらためて驚きました。

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