第136話 今様かぐや姫

 その人は誠に美しい方でした。

 物語に言うかぐや姫とはかくや、そう思うほど、身の内から光が差しているかのよう……


 その光に思わず目を閉じてしまうような方でしたが、太郎は少しだけ違和感を感じました。


「あなたが太郎さん? うずめから聞いておりますよ」

「あ、はい」


 自分に話しかける声を聞いて、太郎はその違和感の正体に気がつきました。


「あの、もしかして、男の方なんですか?」

「おやおや」


 あまてらす様は楽しそうにクスクス笑いながら美しい扇で美しい口元を隠しました。


「うずめ」

「はい」

「お伝えしていなかったのかい?」

「あ、はい」

「おやおや」


 もう一度そう言って笑うその仕草、完璧な女性でありながら、やはり男性のようです。


「あまてらす様は女形おやまなのです」

「女形……」


 お芝居で男性が美しい女性を演じる「女形」は太郎も知っていますし、実際に見たこともあります。

 もちろんどの女形もきれいではありましたが、あまてらす様ほどの美しい人は男女の関係なく今まで見たことがありません。

 見た目だけではなくその仕草、かもし出す雰囲気、何もかもがキラキラしく輝いている、そんな人は初めて見ました。


「あの、全然気がつきませんでした」

「おやおや」

 

 そう言って扇を震わせながら笑うその姿、嗅いだこともない香りが流れてくるかのようです。


 こんな方がいるのだなあ、そう考えていると、ふと、ある言葉が頭に浮かびました。


『そこで踊ってらっしゃるあまてらす様に惚れ込んで』


 うずめ様はそう言っていました。


(そうか、うずめ様はこの人に惚れ込んで、惚れ込んで、惚れて、つまり好きになって……)


 ぼんやりとそう考えると、太郎の心の奥で何かがチクチクと動き回るような気がしました。

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