第134話 花押

「3人ともありがとうね。これは賞与ボーナスを出さないとだめだな、これだけ売れたら」


 太郎に言われて3人はまた大喜び。


「明日もまたよろしくね」

「はい!」


 とにかく今日はもうやることがなくなってしまいました。


「太郎さんは何かほしいものはないんですか?」

「そう言われても、何を売ってるかも知らないし」

「じゃあ、うずめ様たちを見に行きましょう」


 と、3人娘に連れられて、広場の向こうの舞台のようなところに行くことになりました。


「あまてらす様あ、もっとこっち目線くださーい!」

「うずめ様あ、笑ってー!」


 うずめ様たちのような扮装をした人たちがたくさんいて、そのキラキラの人たちをまたたくさんの人が取り巻いていました。


「ちょっと、早く交代して!」

「もうちょっとだけだから!」

「もう、早くしてよ!」

「もうちょっと、もうちょっとだけ!」


 どうやら周囲で取り巻いている人は、うずめ様たちの絵姿を描いているようです。


「描けました!」


 太郎の目の前で、一人の女性があまてらす様のところへ駆け寄って描き上がったばかりの絵を渡すと、あまてらす様はその絵を見て満足そうにニッコリと笑い、何やらさらさらとその絵に書いてその女性に返しました。


「ああっ、幸せです! これ、一生の宝物にします!」


 女性は返してもらった絵姿をギュッと抱きしめ、目をうるませてその場を離れていきました。


「あれは何?」

「ああ、あれはあまてらす様の『花押かおう』を書いてもらってるんですよ」

「花押?」


 「花押」とは、簡単に言ってしまうと「サイン」です。

 どうやらあまてらす様たちの絵姿を描かせてもらい、そこにサインをもらうためにみんな並んでいるようです。


「はいはい、絵が描けない人はできた絵姿も売ってるよ~」

 

 あまてらす様たちは本を売る代わりにそういうものを売っているのだと分かりました。

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