第131話 あるばいと

「いろはちゃんたち、この本のお金払います」

「いえ、そんな!」

「そうそう、いいんです!」

「あたしたち、うずめ様にぷれぜんとしたいんです!」


 うずめ様の申し出をいろは3人娘は断ります。


「だって、これ結構高かったと思うから、他に欲しい物があっても買えなくなるでしょう」

「いえ、この5冊でもう十分」

「あたしたち3人で一緒に楽しむから、他の人の3倍楽しめるんですよ」

「それはうずめ様にもらっていただきたいんです」


 なんて優しい子たちでしょう。

 うずめ様はうるうるしています。

 太郎もうるうるしそうになってます。


「じゃあ僕がお金出すよ」

「いえ、それはいけません」

「そうです、もらう理由がありません」

「自分たちがちゃんともらった報酬で買わないと意味ないです」


 なんて立派な子たちでしょう。

 太郎はますますいろはたちを助けてやりたくなりました。


「そうだ。うずめ様、僕もここで何かを売ることができますか?」

「え、太郎さんも本を持ってきてるんですか? 本は売りたくても選ばれた出見世しか売ることができないですよ」


 何しろ有名なお祭りですから、有名な出見世はともかく、新しく出したいという出見世などは抽選で選ばれないと売ることができないんだそうです。


「大丈夫です、本じゃないですから。この広場の周囲、食べ物とか売ってる見世もあるでしょ、僕もそこで売りたいなと思って」

「食べ物ですか」


 それだったらいけるかもと、うずめ様が主催の人に聞いてきてくれました。


「太郎さんはびっぷだし、火の用心さえ気をつけてくれればいいですよ、だそうです」

「ありがとうございます」


 太郎はうずめ様にお礼を言うと、


「洗濯子ちゃんたち、僕の見世であるばいとしない?」


 と、聞きました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る