第128話 宝物の正体

「問屋に頼めばどんな本でも探してくれるんじゃないの?」

「いえ、問屋さんでは取り扱ってない本なんです」

「問屋が取り扱ってない本?」

「はい」

「そんな本があるの?」

「はい、同人誌、と呼ばれる本です」

「どうじん、し?」


 太郎は初めて聞く単語でした。


 同人誌とは、個人やグループが自分たちでお金を出し、自分たちで作る本のことです。


「だから、問屋さんでは扱ってなくて、こんなお祭りのような場所で売り買いするしかないんです」

「え、その本が宝物なの!?」


 太郎は想像もしなかった宝物の正体に、ひどく驚きました。


「それがそんなに価値があるの? どうして宝物?」

「もう、太郎さんは本当に物を知りませんね」


 洗濯娘たちがやれやれという感じで顔を見合わせるので、太郎は本当にびっくりしてしまいました。

 幼い頃からずっと、太郎はできないことはない、知らないことはない子どもとしてしか扱われたことがないからです。


「こういう本は出せる冊数も決まってますし、手に入れたらみんな手放さないので、手に入れ損ねたら二度と巡り会えなかったりするんです」

「そうなんです」

「だから中には同じ重さ以上のきんと交換してもいいって方もあるぐらい」

「へえっ!」

 

 太郎は本当にびっくりしました。

 世の中に金と同じ重さの価値がある本があるなんて、思ってもみなかったからです。


「だから、うずめ様が持ってらした本を全部焼かれてしまって」

「ええ、それですっかり落胆されて村を出られて」

「庄屋様は勘当するって言うし、本当にあの時は悲しかったです」


 どうやらうずめ様はいろは達の村の庄屋の娘さんだったようです。

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