第127話 うずめ様の宝物

「これ……」

「はい、うずめ様の焼かれてしまった大事な宝物です」

「いろはちゃんたち……」

「どうしてもこれ、手にいれたくて」

「それでがんばりました!」

「…………」

 

 うずめ様は3人が手渡してくれたある物を、言葉もなくしっかりと抱きしめました。


 3人がうずめ様に渡したもの、それは一冊の本でした。


「本?」

「はい」


 不思議そうに尋ねる太郎にいろは達が答えます。


「それ、前に駿河堂が出した本の再販本なんです」

「今度の祭りにそれが出るってちょっと前に噂で聞きました」

「それで、うずめ様はきっともう自分では買うことはなさらないだろうって」

「うん」

「だからどうしても買ってさしあげたかったんですが」

「でもお休みもおこづかいもないし、どうしたらいいかなって困っていたら」

「思わぬことでどちらもいただけて」

「はい、太郎さんのおかげで来ることができました」

「感謝してます!」


 なるほど、そういう流れでおじいさんとおばあさんが鬼ヶ島の話を小耳にはさみ、その結果、太郎がここに来るということになったわけですね。


 いろは3人娘は太郎にぺっこりと頭を下げ、うずめ様も続けて頭を下げてくれますが、太郎にはまだ全然意味が分かりません。


「本だよね? だったら問屋に頼むとか、いちで探すとかしたらよかったんじゃないの?」

「いえ、それでは手に入らない本なんです」

「手に入らない?」

「はい」

 

 太郎の時代、まだまだ本はそんなにたくさん出回っているものではありません。

 大部分の本は貸本屋で借りるか、お金のある人は問屋に注文して手に入れるかで、一般的に流通している本の大部分は、お金さえ払えばほとんどが手に入ります。

 いろはたちが手に入れ、うずめ様が泣くほど喜んだ本って一体どんな本なのでしょう?

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