第126話 うずめ様の涙

 太郎は5年前、自分が何をしてもできてしまう、他の人よりも優秀、手に入らない物がない、その状態に虚しくなり、引きこもることになりました。


(子どもだったなあ)

 

 今だったらそう思います。

 だってそうでしょう、自分は鬼ヶ島のことも鬼のことも知らなかった。

 なのに、全部を知った気になって、これ以上やりたいこともない、欲しいものもない、どうして生きてるんだろう、そう言ってじっと座って過ごしていました。何もする価値がないと思って。


 だけど、このたった数日で、それが間違いであったと気がつきました。


「世界は広いですね、まだまだ知らないことがありました。そしてきっと、もっともっとやりたいことが出てくるんでしょうね」

「え?」


 太郎がいきなりそんなことを言ったので、うずめ様はびっくりしたようでしたが、


「ええ、本当に広いし深いですね、これからの人生もまだまだ楽しみです」


 そう言いました。


 太郎はうずめ様のことがどんどんと知りたくなってきました。

 今知っているのは洗濯娘いろはと同じ村の人だったということ、親とけんかをして村を出されたということ、そして今はそれでも幸せそうだということです。


 今はあまてらす様たちと一緒にいるということですが、一体何をして生きている人なんだろう。そしてこれからどこでどうするんだろう。


 太郎がそんなことを考えていたら、


「うずめ様~太郎さ~ん!」

「ひとまず貴重なのはゲット~!」

「後は新規開拓に行きますが、一休み~!」


 そう言っていろはたちが戻ってきました。


 そして、


「うずめ様、これをうずめ様に」

「え?」


 そう言っていろはたちが差し出した物を見て、


「これって!」


 うずめ様の目にみるみる涙が浮いてきました。

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