第115話 あまてらす様

 3人娘が目をハートにして見つめるそこには、


「きれいな人だねえ」


 思わず太郎もほおっと言ってしまうほどの美形が、扇であごあたりを隠すようにして、斜めに上体を反らしてこちらを見ていました。


「そうでしょう」


 太郎の横でうずめ様が得意そうにそう言います。


「明日のお祭りにはあまてらす様にお会いしたくて来る方も多いんですよ」

「そうなんですか」


 太郎はへえっと感心しながらうずめ様をちらっと見てみました。


 美しく着飾り、完璧な美しさを持つあまてらす様とは違い、それほど化粧もしていないからでしょうか、うずめ様はごくごく普通の女性でした。どちらかと言うと少しだけふっくらとして、美しいというよりはかわいらしい、そういう女性です。親しみやすく、心優しい人にも見えました。


「あの、洗濯子ちゃんたちと同じ村って言ってましたが」

「ああ」

 

 太郎の視線に何が言いたいかを察したのでしょう。


「そうなんです、あまてらす様のようになりたくて親とけんかして、村を出てしまいました」

「本当だったんですね」

「はい。でも思い切ってよかったと思ってます。今はとても楽しくて」

「そうですか、それはよかった、のかな?」


 太郎の言い方にうずめ様は楽しそうに笑いました。


「生きるのは自分ですからね、楽しいのが一番、楽しくなければ人生じゃありませんよ」


 太郎はウズメ様が「楽しい」と言うのをいいなと思いました。

 考えてみれば、自分は「楽しい」もなく5年間をひきこもって暮らしていたのです。

 なんとなくもったいないことをしたな、そんな気持ちにもなったのですが、


「いつだってね、人間はなんでも取り戻せるんですよ」


 うずめ様が太郎のその表情に何かを感じたのか、にっこり笑ってそう言ってくれました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る