第114話 うずめ様

 その夜、夏の遅い夜が来る前、まだ明るい時刻から、宿近くの広場にはすでに提灯ちょうちんが次々と下げられていき、あちこちでぴーひゃらら、と音曲おんぎょくを練習するらしい音などが流れ出しました。


「前夜祭があるでな、よかったら見てきたらええが」


 宿の主人にそう進められ、太郎と洗濯娘たちは広場に行ってみることにしました。


 お昼前、島に着いた時にはまだあまり人もおらず、普通の町か市のようだった道から広場から、色んな屋台が明日のためにのれんやのぼり旗を立て、準備を進めていまるようです。


「明日は賑やかになりそうだね」

「そうですね」

「楽しみです」

「ドキドキします」


 太郎と3人娘は人がわいわいと集まっている広場に出ました。

 まだ前夜祭ということでしたが、それなりにあっちでもこっちでも盛り上がってます。


 と、


「ああっ、うずめ様!」


 今は扮装を解いて普通の着物の3人娘が、ちょこっと目立つ格好の女の人のところへ走っていきました。


「あれ、いろはちゃんたち、来てたのね」

「はい!」

「やっと来られました!」

「太郎さんのおかげです!」

「太郎さん?」


 「うずめ様」と呼ばれた小柄な女性が後ろに立っている太郎に気がつきました。


「あ、はい、太郎です」

 

 急いで太郎が頭を下げると、「うずめ様」も合わせて頭を下げてくれました。


 少しばかり派手めの着物を着ていますが、見た目はごくごく普通の女性です。親に勘当されて「名帳めいちょう」から外されるような、そんなことを仕出かすような人間にはとても見えない。


「あの、いろはちゃんたちと同じ村の出で、今はうずめと呼ばれてます」


 「うずめ様」もそう自己紹介をした後、


「あまてらす様もあちらにいらっしゃるよ」


 と3人娘に声をかけると、


「きゃああああ!」


 3人は黄色い声を揃え、指差された方向に180度ターンをしました。

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