第103話  夢じゃない!

 そうしておじいさんとおばあさんが太郎の心配をし、無事を祈っていた時のことです。


「ただいまー」


 あまりに心配ばかりしているからでしょうか、太郎の声が聞こえた気がしました。


「おじいさん、今、太郎の声がしませんでしたか?」

「う、うん、聞こえた気がする」

「でも、またいつもの空耳なんでしょうね……」

「おばあさん……」


 そうなのです。あまりに太郎を心配して心配して、心配し過ぎたために、一日になんどもおばあさんは、


「太郎が帰ってきましたよ!」


 そう言って家から飛び出しては、宅配だったり、使用人の声だったり、時にはどこの海だか分かりませんが海鳴りや潮騒の音を太郎の声と間違えて、がっかりして戻るということを繰り返していたのです。


「太郎、一体どこにいるの……」

「ただいまー」

「え?」

「は?」


 おじいさんとおばあさんは目を見合わせました。


「今」

「確かに」

「聞こえ」

「たよな?」

「太郎ー!!!!!」

「太郎ー!!!!!」


 おじいさんとおばあさんは声がしたと思われる、あの門、太郎を放り出してぴしゃりとかんぬきをかけたあの門目指して飛び出しました。


 そこには、


「おじいさん、おばあさん、ただいま帰りました」


 太郎が荷車を引き、背中のカゴに「日本一」の幟を差して、にこにことして立っています。


「太郎……」

「太郎や……」


 二人共それ以外の言葉もなく、ゆっくり、ゆっくりと、足を進め、やがて、


「たろおー!!!!!」

「たろおやー!!!!!」


 そう言って駆け出して、太郎にしっかりと抱きつきました。


「本当に夢じゃないのね、太郎」

「うん、夢じゃないよ」

「元気で帰ってきたんじゃな、太郎」

「うん、元気だよ」


 おじいさんとおばあさんはうれしさのあまり、ただただ太郎の名前を呼ぶことしかできませんでした。

 

 おかえり太郎、よかったですね、おじいさん、おばあさん。

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