第102話 いずこに……

「おじいさん、太郎はどうしているでしょうねえ……」

「そうじゃなあ……」


 太郎が旅立って、というか、家から放り出されてから半月以上が経ちました。

 あの日はお盆の7日前でしたが、今は葉月(8月)も末になり、明日からは長月(9月)になろうとしています。


「太郎、お腹空かせてないでしょうかねえ……」

「大丈夫じゃ、おばあさんが作って持たせたあの団子があるよ」

「ええ、食べる物があれば、なんとか生きてはいけると思ってましたけど」

「それに太郎は強い子じゃ、頭もいい、大丈夫じゃ」

「それでも……」


 おばあさんが表情を曇らせます。


「鬼って、強いんでしょうかね」

「そりゃ鬼って言うぐらいじゃから強かろうな」

「そんなのと戦って、太郎は大丈夫だったんでしょうか」

「大丈夫じゃ、太郎は普通の人間とは違う」


 そう、思い返してみれば、すっかり忘れてますが、元々はでっかい桃から生まれるという、この世の人ならぬ過去を持っているのです。

 もう皆様すっかりお忘れかと思いますが、本名も桃から生まれたので桃太郎と言います、どうぞよろしく。


「太郎、ケガしていないでしょうか……」

「大丈夫じゃ、ちゃんとキズぐすりや包帯、油紙なんかも入れてある」

「自分で手当てできてるでしょうか……」

「その前にケガなんかしておらん、大丈夫じゃ」


 おばあさんが心配し、それをおじいさんが慰める。そんな状態がこのところエンドレスで続いています。


「太郎や……」


 心を鬼にして太郎を放り出したおばあさんですが、あの日、目を覚まし、門を叩いて開けてと言っていた太郎の声を思い出すと、勝手に涙が浮かんできます。


「太郎、今どこにいるの? 太郎、元気でいておくれ」

「おばあさん……」


 おじいさんはおばあさんの手を握り、一緒に太郎の無事を祈ります。

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