第100話 獅子は千尋の谷に我が子を落とす
とにかく、こうしていてもどうしようもありません。
「とりあえず歩くか」
太郎はよっこらしょっと立ち上がり、
「あれ?」
色々と気がつくことがありました。
まずは服です。
月明りでふと見てみた自分の姿、軽い鎧の上になんだかきらきらとかっこいい陣羽織を着ているようです。おでこに違和感を感じて触ってみると、どうも鉢金を巻いているようです。
腰には二本差しと、水筒、それから何か食べ物が入ったような錦の袋も下げています。
「これって……」
おじいさんとおばあさんが一生懸命準備してくれた太郎のこすちゅうむです。
「背中には?」
軽いカゴの中に何かが詰まっているようです。
何が入っているのかと降ろして中を見てみたら、
「え、これ何?」
なんだか分かりませんが白くて丸い石みたいな物が小分けしてぎっしりと詰まっているのですが、
「いや、本当に何か分からないからこれ!」
覚えていらっしゃる方がいるかいないか分かりませんが、そう、あの、おばあさんが開発した、
「あるふぁ団子」
です。
「なにこれ、どうするの?」
太郎が途方に暮れていたら、一緒に取説が入っていました。
「お湯で戻すもよし、水で戻すもよし。お湯で戻すには四半刻、水で戻すには一夜浸けておくこと」
そんな風に「アルファ団子」の食べ方が、イラストつきで丁寧に書いてあります。
その他にも薬や生活に必要な細々したものが、やはり丁寧に梱包され、一つ一つに説明の紙を貼り付けてあります。
そう、おじいさんとおばあさんが、太郎が少しでも楽に旅を続けられるようにと、細かく細かく気を遣ってくれているのです。
おじいさんとおばあさんは決して憎くて太郎を放り出したのではない、それが分かる心遣いでした。
「おじいさん、おばあさん……」
太郎は2人の気持ちが分かってじんわりと涙ぐみました。
取説の文字がゆらゆらと揺れています。
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