第95話 イラッと
「太郎や、お盆までもう7日ですよ」
洗濯娘が休みを取って出発した日の夜、おばあさんは井戸水で冷やした素麺を出しながら、さりげなくそう言う。
「そういえば、洗濯子ちゃんたちが休みをとったんだったね」
「鬼ヶ島の話を聞かせてくれたのでね、ちょっと長く休みをあげると言ったのよ」
「そう言ってたね、そういえば」
太郎が素麺を食べながら軽く返事をする。
「やっぱりこんな暑い日は素麺に限るのう」
おじいさんが素麺を一口食べて思わずそう言ったので、おばあさんがキッと厳しい目を向け、おじいさんがちょっと首をすくめた。
「それで、太郎はどうするの?」
「どうするって?」
太郎は鬼ヶ島問題が出てきてから、見た目だけはもうすっかり普通になってしまっています。
もう部屋の中でぼーっとどこかを見ながら座っていることはありませんが、何かを考え込んでいるような姿を見せることはあります。
「太郎や」
おばあさんが太郎に素麺のおかわりを渡しながら続けます。
「それで、あなたはどうするの?」
「う、うん」
太郎はそう言ったまま、黙って素麺を食べ続けています。
みーんみんみんみんみん
夕方になって涼しくなってきてもセミはまだがんばって鳴いています。
そのがんばる声を聞きながら、太郎はどうしてがんばらないのか。
おばあさんが小さくため息をつきました。
みーんみんみんみんみん
みーんみんみんみんみん
みーんみんみんみんみん
セミはずっとがんばって鳴いています・
どうして太郎はがんらないのか。
見ていると、どうやら鬼ヶ島のことは気になっているらしいのに。
おばあさんはちょっとばかりイラッとしてきました。
「ねえ太郎や」
「うん?」
「本当に、どうするの?」
「どうするって……」
太郎はまた黙って素麺を食べ続けます。
おばあさんは本格的にイラッとしてきました。
これは暑さのせいばかりではないようです。
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