第94話 旅立ちの日

 そんな感じで太郎の気持ちがあっちふらふら、こっちふらふらしている間に日は経ち、どんどんお盆が近づいてきました。


「もうすぐたいむりみっとが来てしまいますよ」

「そうじゃのう……」


 おじいさんとおばあさんが決めたたいむりみっと、


「お盆の5日ぐらい前に出ないと間に合わない」


 そう言っていた日がすぐ目の前です。

 

 しかも、そのタイムリミットは2人が勝手に決めたものです。


「本当にそれで間に合うんですかねえ……」

「そうじゃのう……」

「やっぱり、もう少しゆとりを持って出発させた方がいいんじゃないでしょうかねえ……」

「そうじゃのう……」

「そういえば」


 おばあさんがふと思い出しました。


「洗濯子ちゃんたちが、明日からお休みをほしいと言ってましたね」

「ああ、そうじゃったの」


 鬼ヶ島の情報と引き換えにもらったお休みをいただきたい、そう言ってきた日が明日だったのです。


「ゆっくり里に帰ってくればいいですね」

「そうじゃのう、ちょっと他にも土産を持たせてやろう」

「それはいいですね」


 そういうわけで、その翌日、3人の洗濯娘はおじいさんとおばあさんから、他にもいっぱいのお土産を持たせてもらい、何度も頭を下げながら旅立っていきました。


「さて、太郎にもそろそろ出発させないと」

「そうじゃのう」


 そうは言っても、当人がなんとなくもやもやした顔で、ふらふらしながら、時にセミの声が染み込んだ岩のようにいきなり電池切れ、みたいなことを繰り返しています。


「行くなら行く、行かないなら行かないではっきりしてもらいたいものですねえ」

「そうじゃのう」


 蒸し暑さのせいもあるんでしょうが、なんとなくイライラしている2人です。

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