第93話 もやもやふらふらわんわん

「それにだよ」


 太郎はまだまだ理由を探しています。


「もしも、鬼が宝物を奪って鬼ヶ島に持ち寄ってるって話が本当だとして、そもそもどうして僕が行く必要があるんだ?」


 もっともです。

 太郎にもおじいさんにもおばあさんにも、それから家の人たちの誰にも被害があったというわけではありません。


「そんなあるかないか分からない話で、このクソ暑い中、どこにあるか分からない鬼ヶ島を探して旅に出るなんて」


 考えただけでうんざりするのも無理はありません。だって、夏ですよ? おひさまギラギラの炎天下、一歩日陰から出るだけでもげんなりするのに、楽しい場所に行くのだって、道中を考えたら、


「暑いなあ、エアコン効いた部屋で寝てたいなあ」


 と思ってしまったりするものです。それを、そんなわけの分からないところまで、なんで行かないといけないのか、そう思っても無理はない。


 今の太郎の心の中は、鬼ヶ島をものすごく魅力的に感じながらも、なんとか行かなくていい理由を見つけて出かけずに済ませたい、そっちにかなり傾いている状態だと言えます。

 ですが、まだ反対側、鬼ヶ島を見てみたいなあ、そんな気持ちもゼロではない。


「う~ん、誰か決めてくれないかなあ」


 こんな時にありがちな、そんな気持ちになってしまっています。


 でもこれって、行きたい気持ちが結構大きくなってきてる、そういうことにもなりませんか?


 みーんみんみんみんみん


 セミの声が太郎の頭の中にも響きます。


 みーんみんみんみんみん

 みーんみんみんみんみん

 みーんみんみんみんみん

 みーんみんみんみんみん

 みーんみんみんみんみん


 頭の中がわんわんしてきて、


「今は無理、また後で考えよう」


 白紙になってしまったようです。

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